号外:温暖化で遅れるアメリカの紅葉

温暖化の影響はいたるところで見られています。温暖化で秋が遅くなり、アメリカの木々が紅葉する時期に変化が出ているという話題です。私たちの身の回りの自然環境は、色々な事象の微妙なバランスの上に成り立っています。長い歴史の中で、自然環境にはさまざまな変化があったでしょうし、これからも変化していくでしょう。しかし人間の活動によって、特定の変化が促進されたり疎外されたりすることは、決して自然環境にとって望ましいことではありません。

2022年11月14日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事(ナショナルジオグラフィックからの転載)より、

米国バーモント州ニューアークの紅葉

森が赤や黄色に染まる秋は、米国でも特別な季節だ。概算によると、米国東部では紅葉が年間300億ドル(約3兆4100億円)もの観光収入を生んでいるという。しかし、気候変動の影響で秋は暖かくなっている。米海洋大気局によると、北半球においてこれまでで最も暖かかった10月のトップ8を、2014年から2021年が独占しているという。そして、紅葉で有名な米国北東部は、北米の他の地域よりも早く温暖化が進んでいる。”

バーモント州からノースカロライナ州に至るまで、紅葉は予定より遅れている。米ジョージ・メイソン大学の研究者たちが最近行ったカエデの調査によると、19世紀以降、紅葉の開始は1ヶ月以上遅くなったという。要因は気温だけではなく、雨の多すぎや少なすぎ、異常気象、害虫の発生などが様々に関係している。気候変動がこれらすべての要因に影響を与えるため、紅葉のピーク時期の予測は難しくなっている。さらに、気候変動による紅葉の後れは、樹木の生長と休息のサイクルを混乱させている。このことが森林にとってどのような意味をもつのか、科学者たちはまだ把握しきれていない。そうした状況で樹木がどのくらい成長するのか、どのような場所に生息できるのか、以前と同じ速度で炭素を貯蔵し続けることができるのかなど、疑問が残っている。

“人間と同じように、樹木も寒く暗い冬に備えなければならない。春から夏にかけて、木の葉は葉緑素を生成して太陽の光を取り込み、成長と生存に必要なエネルギーを得る。気温が下がり、日が短くなって成長期が終わると、木は葉緑素の生成をやめ、葉に残った栄養分を吸収して冬に備える。しかし、春から夏の間も、葉緑素の下にはオレンジや黄色の物質が潜んでいる。木が休眠状態に向かう時、これらの色が見えるようになる。また、アメリカハナノキやサトウカエデなど一部の樹木では、日が短くなり寒くなると赤色の色素アントシアニンが生成される。科学者たちは、このアントシアニンが葉にとっての防寒着のようなもので、寒さで葉が枯れる前に最後の栄養分を葉から吸収するのに役立つと考えている。”

“葉が落ちるまで過程は「葉の老化」と呼ばれている。気候変動の影響で、この現象が一部の種で顕著になっているが、その影響は未知数だ。メーン州のアーカディア国立公園では、科学者たちが9月の夜の気温上昇と紅葉の遅れに関連がある可能性を指摘している。過去1世紀の間に、同公園の気温はおよそ1.9度上昇した。木々やその他の植物もこの変化の影響を受けている。100年前に同公園で記録された植物種の5つに1つは、現在では見られなくなっている。

米国ニューヨーク州セントラルパークの紅葉

“紅葉の変化を歴史的にとらえるため、大学やその他の機関が管理する植物コレクションである「ハーバリウム」を調査した。19世紀に米国中東部で収集されたカエデの葉のデジタル記録を調べたところ、1880年以降、紅葉の始まりの時間が年平均で約6時間ずれていることがわかった。1世紀以上の間に、その遅れは1ヶ月以上にもなっている。さらに病原菌や植物を食べる動物による葉の損傷を調べたところ、時間の経過とともに損傷の範囲が拡大していることがわかった。これは、夏の干ばつの増加と、紅葉が遅くなっているにもかかわらず木から葉が落ちるのが早くなっていることと関係があるようだ。損傷のある葉は、そうでない葉に比べて3週間も早く落葉する傾向があった。”

“気温の高い時期が長くなり、春の訪れが早くなったことで、木々の生長期間が長くなり、暖かい時期と寒い時期の変わり目が短くなっている。つまり、秋が短くなっているのだ。懸念されるのは、霜が降りる前に、木々がまだ緑の葉に残っている糖分や炭化水素を吸収し終えることができないかもしれないことだ。急に冷え込んでしまうと、木が順応できない可能性がある。栄養分をすべて吸収する前に葉が落ちてしまうかもしれないのだ。そうなると、翌春の木の生育にも影響が出る可能性がある。樹木にとって紅葉のプロセスは、「いかにして食料品店に行き、来年に必要な食料をすべて手に入れるか」なのだ。もしそれができなければ、木の寿命に影響が出ることになる。”

米国ペンシルベニア州のワーナーズビルの紅葉

気候変動が樹木に与える影響は、ひいては気候へのフィードバック効果をもたらす。森林は、毎年排出されるCO2の30%を吸収していると推定されており、森林の状態が悪化すれば、気候に与える影響も大きくなる可能性がある。「これらの生態系は、気候変動の最悪の影響から私たちを守ってくれています」。米コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測書の気候科学者は、紅葉の時期をモニタリングして、変化が炭素循環にどのような影響を与えるかを調べている。樹木がどの程度の炭素を吸収できるかは不明で、成長期間が長いほうが気候問題において助けになるとは限らないという。ヨーロッパの樹木に関する最近の研究では、気候変動によって一部の樹木が以前よりも早く葉を落としていることがわかった。これによって、森林が大気中から除去する炭素の量が減少する可能性はある。非常に深刻な干ばつやストレスとなる現象が起こると、木はより早く機能を停止し、乾燥があまりに激しければ、8月に葉を落としてしまうこともありえるという。”

気候変動によく適応する樹木がある一方で、適応能力の低い樹木は風景から消え、秋の色が変わっていくかもしれない。赤色の色素を作る樹木は北方に分布する傾向があるため、南の方では葉が黄色く染まる木々が優勢になるのではないかと推測する科学者もいる。今のところ確実に、春、夏、冬と同様に秋は暖かくなっている。これは過去数十年間に見られた継続的な傾向の一部だ。”

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