号外:食料自給率の向上へ農政の転換を

ウクライナ危機をきっかけに「食料安全保障」という言葉をよく聞くようになりました。日本は主要国の中でも食料自給率(カロリーベース)が極めて低い国です。エネルギーの安定的な確保も大切ですが、水と食料の確保の方が優先順位は上だと思います。食料供給の不安定化とその価格の高騰、さらに円安の影響も加わり、私たちが日常的に消費している食品の価格も上昇し、家計を圧迫しています(エネルギー価格高騰の影響もあります)。価格が高くても(高くて良いという意味ではありません)、必要量を確保できればいいですが、必要量を確保できないという事態になれば、私たちは飢えることになります。グローバルな貿易体制による食糧調達が、決して万全ではないことを私たちは経験しています。食料自給率を向上させることは、非常に重要な課題なのです。

2023年1月8日付け日本経済新聞の社説より、

輸入される飼料用トウモロコシ

ウクライナ危機をきっかけいに、食料を輸入に依存する日本の危うさが浮き彫りになった。農林水産省はこれを受け、食料・農業・農村基本法の改正を検討し始めた。食料の安定供給に向け、農政を抜本的に見直してほしい。農政の目指すべき方向を示す基本法は1999年に制定された。政府が食料自給率の目標を定めることや、自然環境の保全につながる農業の多面的機能を大切にすることなどを定めている。”

“制定から20年余りが過ぎ、基本法が目的を果たせず、時代の変化に対応できていないことが鮮明になっている。農水省は課題を洗い出すための議論を2022年秋に始めており、2024年の通常国会に改正案を提出する方向だ。”

“壁に当たっているのが自給率の向上だ。農水省は自給率を高める計画をつくり続けてきた。だが現実は4割弱で低迷しており、上向く気配はいっこうにない。主要国では異例の低水準だ。小麦や大豆、飼料用トウモロコシなど食生活に不可欠な穀物の大半を輸入に頼る状態を改善しなかったことが一因だ。そこにウクライナ危機による価格高騰が追い打ちをかけ、家計や畜産業を圧迫している。今後も同様のことが起きかねず、量まで確保できなくなれば国の存立を脅かす。

基本法は自給率を高める具体的な方策を示しておらず、水田偏重の農政を変えられなかった。コメ余りを解消しようと、田んぼに水を入れずに小麦や大豆などを作った農家に補助金を出してきた。このやり方は2つの点で問題をはらんでいた。まず自給率の向上で要となる畑作物は湿気に弱く、水田でつくるのに適していない。加えてコメの生産を減らして需給を締める政策は米価を高止まりさせ、コメ消費の減退に拍車をかけるという袋小路に入った。

“法改正で考えるべきポイントは明らかだ。小麦などを転作ではなく、畑の作物として正面から振興する。飼料用トウモロコシの最近の栽培実績は、コメより生産効率が高いことを示唆している。日本の農業はコメ以外は不向きという固定観念を変えるべきだろう。コメ政策の見直しもこれに連動する。畑作を振興するには水田の畑への転換が必要になる。水田が減ればコメの需給が一段ときつくなりかねないが、突破口はある。高米価路線の修正だ。これまでコメの産地は価格を上げるため、ブランド化を競い合ってきた。これを改め、収量を増やして値ごろ感を追求し、消費を刺激する。実現には品種改良などで後押しがいる。この戦略はコメの輸出にもプラスに働く。”

人工知能(AI)やデジタル技術を積極的に取り入れることも求められる。農業も人手不足が深刻になっており、最新技術による省力化が避けて通れない。農家が法人化して組織的経営への移行が進んだことで、新たな手法を導入しやすい環境も整ってきた。企業が他分野で培ったノウハウを応用し、技術やサービスを提供する余地は十分にある。”

地球環境問題にどう貢献するかも論点になる。多面的機能という言葉は、農業が環境に優しいことを暗黙の前提にしている。だが気候変動への対応を求める国際潮流は、農業が環境に及ぼすマイナスの影響の是正を迫る。牛のゲップが放出したり、水田で発生したりするメタンは温暖化ガスとして問題視されている。排出を抑制する技術などの研究開発を推進するべきだろう。多様な生き物が存続できる自然環境を保つため、農薬や化学肥料を減らすこともテーマになる。日本は化学肥料の原料の多くを輸入しており、国際相場に左右される構造を変える意味もある。変わって注目されているのが、有機肥料だ。海外の鉱物資源を使う化学肥料とは違い、家畜の排せつ物や稲わらなどで製造できる。下水の汚泥を肥料に加工することも期待を集めている。下水はリンなど肥料の原料を豊富に含んでおり、有機肥料の利用促進と並んで食料安全保障に資する。”

“一方、これまで輸入してきた穀物や肥料のすべてを国産に切り替えるのは非現実的であり、海外から安定して調達するための努力は今後も大切だ。国際相場の影響を和らげるにはどれだけ国産比率を高めたらいいかを考え、現実的なシナリオを描くべきだ。食料生産は農業界だけでなく、国民全体に関わるテーマだ。議論を広く呼び掛け、新しい農政の形を示して欲しい。”

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