縫製工場を廃業から救え、国内生産基盤の再建

日本国内市場で販売されている衣料品の輸入比率は数量ベースで98%です。ほとんどが海外で縫製されています。また素材(生地や付属資材)も海外現地で調達されるケースが増えています。しかし昨今、感染症パンデミックや地政学上のリスクが顕在化してサプライチェーンが不安定化したこともあり、色々な業界で国内生産を見直す動きがあります。衣料品についても同様なのですが、あまりに製品輸入が増えた影響で、国内の生産基盤が脆弱化している現実があります。

2023年2月2日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

縫製業など中小工場の商機を広げようと、アパレル大手が支援に動いている。オンワードホールディングス(HD)は独自ブランドの開発を手助けする。新型コロナウイルス下の相次ぐ廃業で供給網が弱り、機動的に服が作れなくなるとの危機感がある。海外とのコスト差が縮まっていることも背景に、国内基盤を立て直す。”

エスエイチ・ケー・プロダクト

“通販サイトで昨秋、ワンピースの新顔がお目見えした。縫製業のエスエイチ・ケー・プロダクト(秋田県大館市)の新ブランド「エイル」だ。得意の薄物の縫製技術を生かし、家で洗えて家事の際に腕まくりしやすくした。腰ひもで絞るデザインも売だ。既に想定以上の約150着が売れ、近く商品を拡充する。従業員約20人の同社はアパレル企業から生産を請け負ってきたがコロナ下で受注が減り、2021年は2019年比で売上高が2割減った。加藤義明社長は「下請け仕事に依存するリスクは大きく、自立した収益源が必要」と考えた。ただ高い技術があっても自力でブランド企画や販売を手掛けるハードルは高かった。”

“頼ったのがオンワードHD傘下のオンワードデジタルラボ(東京・港)だ。工場が独自に企画するファクトリーブランドと呼ばれる商品の開発や販売の支援サービス「クラハグ」を2021年にスタート。工場の強みを分析してデザイナーが一緒にコンセプトや素材、PR戦略などを練る。”

オンワードの公式通販サイト

“ファクトリーブランドはD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)と呼ぶネット直販の普及に伴い増えている。日本アパレル・ファッション産業協会は、服飾雑貨も含めれば全国で1000以上あるのではないかと推測する。ただ、知名度を上げるのは容易ではない。オンワードHDは自社の公式通販サイトにクラハグの専用コーナーを設けて紹介し、モデルなどをアンバサダー(大使)に任命してSNS(交流サイト)で発信してもらう。支援先は北海道から九州まで40社以上に広がった。専用コーナーには1日に約2千人が訪問するようになり、累計1千着以上が売れたようだ。ただでさえアパレル市場が縮小する中、工場の独自ブランドを支援するのはライバルを育てるようなものだ。それでも踏み切る背景には、国内の供給網が崩れることへの危機感がある。

衣類の輸入比率と国内消費、国内事業所数の推移

“繊維産業は日本の近代化をけん引したがバブル崩壊で人件費の安い中国などへ工場移転が加速。経済産業省によると繊維工業の事業所(4人以上)は2020年に約9400と2005年から半分以上が消えた。2019年からの1年間でも11%減。衣類の国産比率は金額で約2割、数量で約2%まで落ちた。コロナ下では海外依存のもろさが露呈した。オンワードHDは「供給網が乱れて納品遅れなど大きな影響がでた」と振り返る。2022年に進んだ円安で輸入品が割高になったこともあり、中核子会社オンワード樫山の国産比率(金額)を足元の20%弱から引き上げる方針だ。そのためには国内工場の経営改善が欠かせない。後継者の確保や技術伝承につながれば、ものづくりの復権に近づくことができる。今後は商品の共同開発なども進める。”

“アパレル以外でも生産現場を立て直す動きが広がる。中川政七商店(奈良市)は焼き物や刃物など工芸品生産者の経営を支援してきた。ただ「個社が再建しても産地全体の衰退スピードが速い」という。産地内で分業する企業の連系も促していく考えだ。”

1ドル=150円台からは揺り戻したが、ここ20年でみれば依然として円安水準で輸入コストは上昇している。また縫製工場が集まる中国などで賃金水準が上がり、日本との差が縮んでいることも国内回帰の後押しになっている。とはいえ採算を取るには大量生産による低価格品では厳しく、環境負荷に厳しい目を向ける消費者もつかめない。ニーズに合わせて高付加価値品を必要量だけ生産できるよう、機動的なマーケティング戦略が欠かせない。

Follow me!