号外:食糧不安が消えない理由

原料価格の高騰、物流コストの上昇に急激な円安効果(このところは多少落ち着いていますが・・・)もあって、昨年来、国内では食品や生活用品の値上げが続いています。帝国データバンクによると、主要食品メーカー195社が2月に約5500品目の値上げを予定しているとのことです。近所のスーパーでも毎月のように色々な食品が値上げされています。最近は鳥インフルエンザの流行による殺処分の影響で、「物価の優等生」と言われていた卵の価格も高騰しています。コンビニで販売しているサンドイッチの卵の使用量が減るそうです。世界的に見て、今後の食糧事情はどのようなリスクを抱えているのかを紹介した記事です。

2023年2月2日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事(Financial Timesからの転載)より、

小麦の生産(イメージ)

“肥料および農産物価格は2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて上昇したものの、ピーク時に比べると大幅に下落している。だが農業の専門家やアナリストらは、世界の食料供給は今もリスクにさらされているという。食品価格は2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻する以前からすでに高水準にあった。干ばつや、各国政府や企業が新型コロナウイルスのパンデミックに関連して食糧備蓄の大量確保に動いたことが背景にある。その後、世界最大の肥料輸出国であるロシアの輸出が制限されたことで肥料価格が急騰し、また窒素系肥料の重要な原料である天然ガス価格が大幅に上昇したことも農産物市場を圧迫した。”

ロシア政府とウクライナ政府が2022年7月に黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出について合意し、ロシア産穀物の供給も豊富だったことが、穀物価格の低下に貢献した。また天然ガス価格の下落に伴い、肥料市場も沈静化した。しかしアナリストらは、穀物の輸出合意は崩壊する可能性があり、エネルギー価格の不安定さや気候変動も作物生産の妨げになり得ると警告する。世界銀行の上級農業エコノミストであるジョン・バフェス氏はこの状況を、「飛行機が単発エンジンで飛んでいる状態」にたとえた。「エンジンが作動している間は大丈夫だが、停止すると問題が起きる。こうしたリスクが一つでも実際に起こってしまえば、(農産物や肥料の価格は)瞬く間に上昇するだろう」。”

最も差し迫った脅威は、国連が支援してまとめたウクライナ産穀物の輸出合意が3月に更新時期を迎えることだ。期間を延長できなければウクライナは穀物を輸出できなくなり、穀物価格が再び高騰するおそれがある。肥料や農作物の多くは、ウクライナを支援する国が科した対ロシア制裁の対象外となっている。だがロシアと欧州当局者によれば、銀行や保険会社、物流グループの多くは、ロシア産農作物の取り扱いに難色を示しているという。よって地政学的な緊張を理由に、これらの品目の供給に混乱が生じる可能性がある。”

もう一つの脅威は気候変動だ。2022年はラニーニャ現象にもかかわらず欧州その他の地域で記録的な高温が観測された。ラニーニャ現象では太平洋赤道域の海面温度が低下する。ラニーニャが過去3年間続いたことで、多くの気象学者は、2023年には逆に海面温度が上昇するエルニーニョ現象が起きる可能性が高いと警告する。英気象庁は2022年12月、ラニーニャからエルニーニョに移行すれば、「2023年の世界気温は2022年より高くなる可能性が高い」との予想を発表した。地域別にみると、過去にエルニーニョが発生した際は南アジア、東南アジアおよびオーストラリアで干ばつが起こり、ブラジルやアルゼンチンなどの中南米諸国が洪水に見舞われた。

“英穀物商社ED&F Manのリサーチ責任者を務めるコナ・ハク氏は、「強いラニーニャ現象が3年も続いたこと自体、前例がない。だが2023年第2四半期にはエルニーニョ現象が発生する可能性があり、そうなれば世界中の気候が大混乱するおそれがある」と指摘する。「最も被害を受ける可能性が高いのは熱帯地域の途上国だ。エルニーニョの影響でアジアでは降雨量が減少し、南米では大雨が降る可能性がある」。

穀物在庫が比較的低水準であることも、アナリストらが世界の食料供給を懸念する原因の一つとなっている。小麦に関しては、穀物市場関係者や農業エコノミストが在庫水準の測定に使用する「在庫率」という尺度をみるとわかりやすい。それによると、作物年度が終了する2023年6月時点の在庫は58日分となる見通しであり、これは干ばつと世界のエネルギー価格の上昇によって国際的に食品価格が高騰した2008年以降、最も低い水準である。米農務省の元チーフ・エコノミストで、現在は米シンクタンク国際食糧政策研究所(IFPRI)の上級特別研究員を務めるジョセフ・グラウバー氏は、「世界的な在庫水準の低さを背景に食品価格は引き続き不安定に推移し、この春に干ばつや大規模な異常気象が生じた場合は大幅に上昇する可能性がある」と分析する。”

多くの途上国にとっては、為替変動も食料供給を左右する重要な要因だ。国際市場ではこのところ食品価格が低下しているとはいえ、ドル高を理由に、現地通貨建てでみた食品価格は高止まりする可能性がある。国際取引価格が小売りのサプライチェーン(供給網)に反映されるまでは約1年のタイムラグがある。このため、食品小売価格の上昇は今後数四半期にわたって続く可能性が高い。「世界の大半の地域では、食品の消費者物価指数(CPI)でみた食品価格の上昇率は依然として10%を上回っている。全体的なインフレが後退すれば食品CPIも低下すると思われるが、そのペースは緩やかなものになるだろう」とグラウバー氏は予想する。”

“とはいえ、改善の兆しはいくつかある。国連食糧農業機関(FAO)が農産物の国際取引価格を元に算出する食品価格指数は9ヶ月連続で前月を下回った。実際、農作物の生産に欠かせない肥料や小麦は2022年につけた高値を40%超下回る水準で取引されている。ロシアの小麦生産量が記録的な水準に達し、ブラジルのトウモロコシおよび大豆が豊作となったことで、国際的な穀物市場および植物油市場の品薄状態は緩和された。また最近では、原料である天然ガスの価格が下落したことにより、窒素系肥料の生産量が増加している。肥料を含めた品目の国際的な取引価格の低下によって、生産農家の負担はある程度軽減されるだろう。

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