号外:港湾でCO2吸収「海洋植物の森」
「ブルーカーボン」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。海藻などの海洋植物を育て、海中のCO2を吸収させる事業です。海に囲まれた日本にとって有効な、脱炭素のための有力な手段です。
2023年2月21日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“海藻などの海洋植物を育て、CO2を吸収させる「ブルーカーボン」事業が全国の港湾に広がりつつある。国内の大手企業が地元関係者と連携し、藻場の整備を進めている。温暖化抑制の効果は世界的に注目を集め、日本も脱炭素への有力な手段に位置付ける。国土交通省は全国の港湾での調査に乗り出し、普及につながる制度を検討する。”
“日本製鉄は2022年秋に北海道増毛町や三重県志摩市など全国6ヶ所で、漁業協同組合をはじめとした地元関係者と組んで藻場の整備に乗り出した。藻場には鉄鋼を製造する際に副産物として出る鉄鋼スラグを加工した資材(施肥材)を提供する。スラグには海藻の生育に役立つ成分が含まれている。”
鉄鋼スラグ:鉄鋼スラグは、鉄鉱石から鋼を作り出す還元・精錬段階で生まれるシリカ(SiO₂)などの鉄以外の成分が、石灰(CaO)と溶融・結合した副産物であり、工場生産による安定した品質をベースに、省エネルギー・省資源、CO₂削減を可能にする資材として利用されている。
“日鉄はこれまで全国約40ヶ所で同様の取り組みを実施してきた。2018年からの5年間で海藻が吸収した49.5トン分のCO2はカーボンクレジット(削減量)として認められた。国交省も「大手企業の先進的な事例」として評価する。ENEOSホールディングスも大分、山口両県でウニの食害で減少していた藻場の回復に取り組んでいる。Jパワーや住友商事、商船三井など幅広い業種の大手がブルーカーボンに関連したプロジェクトに参画している。”
“アマモや昆布、ワカメといった海洋植物は光合成により、海水に溶け込んだCO2を吸収する。国連環境計画(UNEP)は2009年の報告書で、ブルーカーボン生態系を温暖化対策の有力な選択肢として示した。世界の浅い海域でのCO2吸収量は年40億トンに達するとの試算もある。陸域の吸収量である年73億トンの半分ほどだ。日本の沿岸で年間130万~400万トンの吸収量を期待できるといい、2030年には森林などのCO2吸収量の2割ほどになるといった研究もある。”
“港湾を所管する国交省は環境省などと連携し、ブルーカーボン事業の拡大を後押しする。2023年度末をめざし、全国に約1000ヶ所ある港のすべてで、藻場の整備に向けた実地調査やCO2の吸収効果の検証などに取り組む。ブルーカーボン事業に取り組んだり、関心を持っていたりする企業や漁協、地方自治体、NPO法人などをつなぎ、先行事例のノウハウを伝える。新たなプロジェクトの立ち上げを支援する仕組みも検討する。護岸など港湾設備の設計基準について、海洋生態系と共生できるようにする見直しも進める。一部の企業が導入しているカーボンクレジット認証の普及拡大も狙う。政府は2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする方針をかかげる。四方を海に囲まれた日本で港湾の脱炭素は重要なテーマとなる。”