号外:再生型漁業、アジアに伸びしろ号外:
昨年、世界の総人口は80億人を超えたと言われています。ウクライナ危機を背景に食料安全保障が注目され、特に小麦やトウモロコシといった穀物(ロシア、ウクライナは世界の穀倉地帯です)の不足や価格高騰が懸念されています。トウモロコシは家畜の飼料になりますから、畜産物の価格にも影響が及んでいます。農業用肥料の供給不安と価格上昇によって、農作物全般の収量低下や価格上昇も懸念されています。日本人にとっては特に身近な水産物についても、乱獲による漁獲量減少や燃料費の高騰によって価格が上昇し、私たちの家計を圧迫しています。世界では、飢餓に直面している人々もたくさんいます。私たちは「食べること」について、もっと真剣に考えて、将来に備えていかねばならないと思います。下記は、漁業についての考察を紹介した記事です。ちょっと荒っぽい意見ですが、漁業について考えるきっかけになると思います。世界の海はつながっています。大陸の川は国境を越えて流れます。その恵みを枯渇させずにみんなで利用していくためには、世界が協力して、上手に管理・開発していくことが必要です。
2023年2月11日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事(ワールドフィッシュセンター暫定事務局長:エッサム・ヤシン・モハメド氏の論評)より、
“現在の世界経済システムは、それが依存している自然資本そのものを枯渇させている。こうした自滅行為がもっとも顕著に表れているのが、魚介類の乱獲だ。しかし水産資源はもっと慎重に管理できるし、漁業と水産養殖業はさらなる成長も実現可能だ。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の資源経済学者であるクリストファー・コステロ教授らの研究によると、持続可能な管理の下であれば、生産高を6倍に増やすことが可能だという。高い潜在成長性はアジア各国にとって大きな意味を持つ。国連食糧農業機関(FAO)の推計によると、アジアは世界の養殖生産高の9割以上を生産している。にもかかわらず、この地域の貧困や食糧不安、不平等は高い水準にとどまっている。”
“魚介類からより多くの恩恵を引き出すには、水産業は生産水準を維持する以上のことを目指さなければならない。業界と政策立案者の双方が、水産資源のリターンを最大化する再生戦略を開発し、採用する必要がある。乱獲型から再生型モデルへの移行には、政治・経済システムの転換が必要だ。それは簡単なことではないが、飢餓や貧困、不平等を緩和することが大きな潜在的リターンをもたらす可能性がある。”
“出発点は、漁業、養殖業とそれらが依存する生態系とのバランスをとるために環境コストを認識することだ。水産業は一般に畜産よりもCO2排出量が少ないが、漁業者はもっと排出量を減らすことができる。そのためには生産に環境コストを組み入れ、漁具や技術の改良を進めることだ。このような取り組みは始まったばかりだが、見通しは明るい。例えば日本では2022年、ウニの捕獲とコンブの再生を組み合わせてCO2を吸収するプロジェクトに、世界で初めて「クレジット(排出量の削減枠)」を授与した。これによって炭素を固定するだけでなく、生物多様性や生態系も改善できる。”
“東ティモールでは、ティラピアを養殖することで生産性を3倍に引き上げた。このようなプログラムの成功に対する認識を高めることは、協力的な政策を促すために極めて重要だ。魚種の改良は成長を加速し、採算の採れる価格を低くすることで、漁業関係者に利益をもたらすことができる。我々が直面している地球規模の課題は大きいが、それらに科学的に取り組むことは可能だ。ただそのためには政治、経済、科学のすべての面で、多国間の枠組みが必要になる。”
<以下は日本経済新聞:志田富雄編集委員>
“国連食糧農業機関(FAO)の2020年の統計によると、世界の漁業生産は約2億1400万トンだった。天然資源の減少により、漁獲量は1980年代から9000万トン程度(内水面を含む)で頭打ちとなっている。一方、増え続ける食料需要を満たしてきたのは1億2000万トンを超えた養殖生産だ。養殖にも多くの課題がある。人口稚魚で完全養殖できる魚種は限られ、餌にも魚粉や天然の水産物を使うのが現状だ。養殖事業が海洋環境の影響を受けるのと同時に、食べ残したエサが海洋汚染につながるリスクもある。養殖であれば乱獲しないから持続可能性があるとは言い切れない。モハメド氏が指摘する成長余地は、こうした課題をどう解決していくかにかかっているだろう。”