号外:気温上昇1.5度への瀬戸際

各国の温暖化対策は予定より遅れており、IPCCは3月20日に発表した報告書で警鐘を鳴らしています。気候変動による災害を軽減・回避し、脱炭素社会への移行を21世紀の成長路線としなければなりません。刻々と時間的な猶予がなくなりつつありますが、日本の対応はどうもスピード感が足りないように思います。

2023年3月21日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が3月20日に公表した報告書は、各国の温暖化対策の後れに危機感をにじませた。産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達すると予測した。温暖化が進むほど水不足なども深刻になる。”

産業革命前からの気温上昇推移

世界は温暖化を1.5度以内に抑えられるかどうかの瀬戸際にある。2015~22年は観測史上最も暑い8年だった。欧州は2012~21年の陸地の平均気温が1.9度上がり、2022年は熱波で原子力発電や水力発電が十分に稼働できない状況に陥った。日本も2022年6月に想定外の気温上昇で電力需給が逼迫した。1.5度目標を危ぶむのはIPCCだけではない。国際共同研究団体グローバル・カーボン・プロジェクトも2031年に50%の確率で気温上昇が1.5度を超えるとはじく。2022年は1.2度上昇したという研究もある。”

スペイン・カタロニア地方の貯水池

IPCCは1.5度を超える場合の被害の想定も示している。化石燃料への依存が続き、温暖化ガス排出量が多いままの4度上昇シナリオだと、足元の世界人口の半分にあたる最大40億人が水不足に直面する。熱波も深刻だ。気温が2.7度上がる場合、世界の65%の都市で暑さ指数が40度以上という深刻な猛暑日が年1回以上発生する。”

暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標。 単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、その値は気温とは異なる。暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標。暑さ指数(WBGT)が28(厳重警戒)を超えると熱中症患者が著しく増加する懸念がある。暑さ指数30以上は「危険」と区分される。

“既に「人為的な気候変動が自然や人々に広く悪影響と損失・損害を与えている」とも指摘した。英保険会社大手のエーオンによると2022年の台風や洪水などの気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に上った。特に懸念されるのは発展途上国だ。2010~20年に洪水や干ばつ、暴風雨による死亡率は他の地域の15倍だった。”

IPCCは1.5度目標のためには現状の再生可能エネルギーなどへの投資は足りないとみている。2030年までの脱炭素投資額は年平均で現在の3~6倍に引き上げる必要があるという。脱炭素技術の普及に期待も示した。コストは2010年からの10年間で太陽光発電とリチウムイオン蓄電池が各85%、風力発電で55%減った。価格低下によって導入量は太陽光が10倍、電気自動車が100倍に急増した。”

今回の報告書を踏まえ、各国・地域は気温上昇の加速に歯止めをかけられるか試される。ウクライナ危機でエネルギー安全保障の懸念も急上昇した。地政学リスクと向き合いながら温暖化対策にどう取り組むかは以前にも増して難しい問題になっている。11月にアラブ首長国連邦(UAE)で開く国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)。議長を務める予定のスルターン・アル・ジャベール産業・先端技術相は「1.5度目標は揺るがない」と強調している。”

<諸富徹:京都大学大学院経済学研究科教授談>

IPCCの統合報告書は、現状では1.5度目標はおろか、2度目標の達成も困難だと指摘している。報告書はこの先10年が勝負で、劇的な排出削減が不可欠と何度も協調している。困難な状況だが、IPCCは決して諦めていない。すでに利用可能な技術はあるので、投資を積み増せばよいとして我々の背中を押す。すでに実例はある。EU復興基金と米国インフレ抑制法案だ。これはいずれも、脱炭素技術への巨大投資で大幅な排出削減を実現する。これらの効果を分析したシミュレーションによれば、2030年代には再生可能エネルギー、蓄電池、電力系統、電気自動車、そして水素などからなる脱炭素経済が台頭し、それが21世紀の競争軸を形成することが分かる。

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