パタゴニア、食でも「地球を救う」
会社の目的を「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と定めるパタゴニア社。アウトドア・アパレルだけではなく「食」においても脱炭素を目指す事業を展開しています。
2023年3月23日付け日経MJ電子版に掲載された記事より、
“アウトドアウェア製造販売のパタゴニアが手がける食品。異分野ながら農業にも挑戦し続け、今や直営店や直販サイトのみならず、オーガニック系の食品スーパーも取り扱うようになった。アパレルで培ったブランド力とノウハウが食でも生かされている。”
“東京・渋谷にある「パタゴニアサーフ東京/アウトレット」。売り場の一角におしゃれな包装デザインの魚類の缶詰やスープ類、ワインなどが並ぶ。中でも人気は、長い根が温暖化の原因となる炭素を大気中から地中に取り込んで固定する多年生穀物カーンザを使ったビール(594円)。アウトドアウェアのように食品にも商品ごとに土壌や海を再生・修復させる物語があり、店では社員が熱心に説明してくれる。社員自身がファンであるのは強いブランドの共通点。オーガニック食品は価格を見てためらう人が多い。そうならないよう、全体的に価格は意識して抑えめに設定しているそうだ。”
カーンザ:20年ほど前に誕生した多年生穀物。多年生であるため畑を耕したり植え替えたりする必要がなく、そのためのエネルギーやCO2の排出量を削減できる。また3mを超える長い根に空気中のCO2を蓄えることで、土壌に炭素を貯留する役割を果たす。地中深くまで張り巡らされた根は、1年を通して土壌を守り、水や炭素、窒素を循環させる。一年生穀物(小麦等)に比べて、農業による環境悪化を防ぐ効果が大きい。
“パタゴニアが食品事業プロビジョンを始めたのは2012年。日本では2016年に売り出した。日本支社の食品担当は1人から5人に増え、取扱店はイオン傘下のオーガニックスーパー「ビオセボン」や福島屋(東京都)、ヤマダストアー(兵庫県)などに広がる。アウトドアの会社がなぜ食品に力を入れるのか。「新しいジャケットは5年か10年に1度しか買わない人も、1日3度の食事をする。我々が本気で地球を守りたいなら、それを始めるのは食べ物だ」と創業者のイヴォン・シュイナード氏はいう。パタゴニアプロビジョンズディレクター、近藤勝宏さんがこう補足する。消費者の行動は投票と同じように社会を変える力がある。だとすれば「誰もが1日3回の投票権を持っている」。食ビジネスで解決策を示そうと考えたという。”
“このところ開発に力を入れるのがお酒。手作業で大切に作られた自然派ワインや日本酒には、土壌や蔵の微生物など自然環境の豊かさが反映されているからだ。パートナーの生産者には「寺田本家」(千葉県)や「仁井田本家」(福島県)など日本の蔵元も名を連ねるようになった。米国本社も日本の生産者には注目しているといい、オーガニックの最高水準である、リジェネラティブ・オーガニックの認証取得でも共同する。パタゴニアというブランドを通じ日本の食文化の海外発信が期待される。”
“やみくもにアイテム数や取扱店数を増やさない。販路は理念を分かち合えるパートナーと組み、商品開発ではいかにインパクトを与えられるかを重視する。販売を予定しているのが米国で先行販売するカーンザを使ったパスタだ。パタゴニアが世界で初めて商品化し、今は「革新的な穀物」として米国で注目されるようになった。身近な主食は普及しやすく、それだけ社会に与えるインパクトは大きいと考える。物価高ではブランド力と「なぜ売れるのか」物語性のある商品が求められる。”