号外:AI進化、比類なき言語能力10年で獲得

自分で考えて「文章を書く」という行為は非常に大切なことです。「書く」ために、頭の中で考えていることを整理し、文脈を組み立て、書くことで内容を定着させることができます。文章にしてみて初めて、「ああ、自分が漠然と考えていたことは、こういうことだったんだ」と再認識することもあります。文章にすることで、記録に残し(人は考えていたことをすぐに忘れてしまいます)、再読して振り返ることもできますし、内容を再検討することもできます。また自分の考えを他者へわかりやすく伝えるための材料にもなります。米国の新興企業オープンAIが2022年11月に公開した「ChatGPT(チャットGPT)」が大きな話題になっています。チャットGPTは過去の膨大な情報を網羅し、問いかけに対する回答を平易な文章で提示する、高度な対話能力を備えているということです(私はこれまで利用したことはありません)。苦労しながら文章化するという作業を軽減してくれるので、人間の活動の生産性が向上するという意見がありますが、本当にそうでしょうか。私は、苦労しながら時間をかけて考え、それを文章化するということ自体が(内容は色々でしょうが)、人間の思考や認識にとって極めて重要なことであると思っています。

2023年4月17日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

Open AI

“人工知能(AI)の進化が新たな段階を迎えた。人間をしのぐほど高度な言語能力を獲得し、幅広い知的作業を担い始めた。人類は「自分らより賢い存在」となりつつあるテクノロジーとどう向き合うべきか。”

人類とAIの共生

“あなたが米国の政治家だとしよう。民意を把握するための重要な情報の一つが、メールを通じて支持者らから届く言葉だ。もしその文章を書いたのが人間ではなく、AIだったとしたら。3月、米コーネル大の研究者が興味深い実験結果を報告した。7千人超の州議会議員にAIが書いたメールと人間が執筆したものを送り、見分けられるかを調べる内容だ。検証から導いた結論は「区別できなかった」。AIが有権者のごとく「民意」を述べるようになれば、民主主義の前提が崩れかねない。歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は著書「サピエンス全史」で、数十万年前に登場した現生人類のホモ・サピエンスが地上の覇者となった理由に「比類なき言語」を挙げた。今やその特権は人間だけのものではない。この10年でAIは急速に発達し、約40億年に及ぶ生物の進化の果てに人類が築いた聖域に足を踏み入れた。

米新興オープンAIが2022年11月に公開した「ChatGPT(チャットGPT)」は高度な対話能力を備え、世界の利用者は2ヶ月で1億人を超えたとされる。優れた性能が喝采を浴びた当初と異なり、足元では「鋭すぎる利器」への警戒が高まる。「変化を予測し、備える必要がある」。米IT大手に厳しい態度で摂氏「GAFAの天敵」とも呼ばれた欧州委員会のベステアー上級副委員長は3月、演説で訴えた。秩序を揺るがす存在としてチャットGPTを挙げ、影響を注視する。偽情報の生成やサイバー犯罪への悪用が危惧され、規制論も台頭し始めた。”

新たな技術を拒むことが解とは限らない。米ゴールドマン・サックスは3月、チャットGPTなど生成AIと呼ぶ技術が世界経済に及ぼす影響をリポートにまとめた。普及が進むと生産性が向上し、世界の国内総生産(GDP)を7%押し上げると予測する。「考えを整理し、どこから手をつけるべきかヒントをくれる」。米スタンフォード大でデータ科学を学ぶリズワーン・マリクさんにとってチャットGPTは頼れる相棒だ。同大の学生新聞の1月の調査では学生約4500人のうち、17%が課題や試験にチャットGPTを使ったと答えた。人とAIが知的作業で協働する光景は着実に広がる。チャットGPTをうまく使えば資料や報告書の作成を劇的に効率化できる。オープンAIが3月に発表した最先端の「GPT-4」はさらに進化し、米司法試験の模擬試験で上位10%に入る知的水準を獲得した。”

テクノロジーは過去にも人間のありようを変えてきた。18世紀からの産業革命では機械化が進み手工業者らが職を失う一方、後の飛躍的な経済成長につながった。「同様の役割をAIが担う可能性がないとは言えない」。AIが雇用や職業に与える影響の研究で著名な英オックスフォード大のマイケル・オズボーン教授は指摘する。技術のインパクトに比例し、生じる光も影も強くなる。米インディアナ大の推計では126の専門職のうち開業医やマーケティング専門家、翻訳者など75%に相当する95職種はチャットGPTにより多くの業務が代替される。工場勤務者や小売店員の5~9%より格段に高く、幅広い知的労働で雇用の減少につながる可能性がある。”

「AIの進化」が問うのは「人類の真価」だ。現代思想に詳しい記号学者の石田英敬氏は「もっともらしく見えるAIの答えを疑う態度が重要だ」と指摘する。近代哲学の祖、デカルトは「方法的懐疑」により、徹底して疑い、考える主体に存在意義を見いだした。高度な知能を持つAIが登場した今こそ、変化に対応する思考力が必要となる。

生成AIへの逆風

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