伊藤忠とレゾナック(旧昭和電工)、廃衣料でアンモニア生産

ファッション産業のサステイナビリティ(持続可能性)を考える時、使用後衣料品(廃棄される衣料品)をリサイクルして循環型産業へ移行することが課題です(繊維 to 繊維リサイクル)。しかし使用後衣料品のリサイクルは非常に難易度が高いことは、このHPでも取り上げてきました。難易度が高いからといってリサイクルを諦めるのではなく、リサイクルを実現するための技術開発や制度設計の努力は継続しなくてはなりません。その一方で、繊維 to 繊維のリサイクル確立までにまだ時間がかかるのであれば、それまでの間、少しでもファッション産業に由来する環境負荷を低減することも考えなければなりません。以下にご紹介するのは、伊藤忠商事とレゾナック(旧昭和電工)が連携して化学繊維を使った廃衣料からアンモニアを製造するという取り組みです。レゾナックが製造するアンモニアの主用途は、火力発電所の排ガスから窒素酸化物(NOx)を除去するための脱硝用や肥料用原料、合成樹脂の原料などのようです。最近では、アンモニアは火力発電所でCO2を発生させない燃料としても注目されています。化学繊維の廃衣料をアンモニアとして有効活用することはとても有意義なことですが、ファッション市場には新たな原材料を投入しなければなりません。バランスを考えることが必要ですね。

2023年3月28日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

回収された廃衣料

伊藤忠商事とレゾナック・ホールディングス(旧昭和電工)は、化学繊維を使った使用済み衣料品を活用したアンモニア生産に乗り出す。天然ガスなどから生産する従来方式よりCO2排出量を約8割減らせる。レゾナックは早ければ2030年ごろにも、生産するアンモニアの全量を廃棄物由来とする。アパレル業界の課題である使用済み衣料の大量廃棄への対応と、脱炭素につなげる。伊藤忠とレゾナックが覚書(MOU:基本合意書、Memorandum Of Understanding)を結んだ。伊藤忠は使用済み衣料に含まれる化学繊維と廃プラスティックなどを混合した固形原料を製造・供給。レゾナックが川崎事業所(川崎市)のプラントで、2023年度中にアンモニア生産を始める。伊藤忠はアンモニア生産に使う固形原料を初年度に1000トン供給する。2027年度には1万トンまで増やす考えだ。1万トンの原料から約9000トンのアンモニアが生産できるとみられる。

廃棄衣料の活用の流れ

“アンモニアは、天然ガスなどと水を高温で反応させて水素を発生させ、窒素と合成し生産する手法が一般的だ。製造時に大量のCO2が出るのが難点だ。国際エネルギー機関(IEA)によると化石燃料を使う手法でアンモニアを1トン生産すると、2.4トンのCO2が排出される。天然ガスを使う手法を、使用済み衣料品と廃プラ由来の原料を使うレゾナックの手法に変えると、CO2排出量は約8割減ると見込む。水素をつくる際に新たな熱源を原則必要とせず、副産物として出るCO2も回収・再利用するためだ。

“使用済み衣料品と廃プラの確保にあたって伊藤忠は、グループ会社を活用する。飲食店や小売店の制服を手がけるユニコ(東京・中央)や、米スポーツブランドを扱うドーム(東京・江東)といったアパレル関連企業を傘下に持つ。ユニコが扱う制服は化学繊維を多く使っている。顧客が制服デザインを変更するタイミングなどにあわせ、使用済み品を回収する体制を整える。また数百社に及ぶ取引先から回収することも検討する。2022年末に伊藤忠は、使用済み衣料品などを回収するスタートアップのエコミット(鹿児島県薩摩川内市)に出資。同社と回収拠点の拡大に取り組んでおり、一部をアンモニア生産にあてる。”

レゾナックはアンモニア生産にあたり、これまでも天然ガスから廃棄物由来原料への原料転換に取り組んできた。すでに家庭のプラスティックごみなどを使い、アンモニアを生産している。川崎事業所には廃プラでアンモニアを商用生産するプラントがある。現時点でアンモニア生産の半分は、天然ガスを原料に使っている。レゾナックは早ければ2030年ごろにも、廃棄物由来原料からアンモニアを全量生産するとの目標を掲げる。今回の協業で廃プラ原料に加え、使用済み衣料を使った原料も使えるようになる。レゾナックの川崎事業所は、日本の原料用アンモニア消費量の約1割にあたる年約12万トンを生産している。うち7割は火力発電所の排ガスから窒素酸化物(NOx)を除去するために使う脱硝用や肥料用向けに使われ、残りは自動車部品などに使う合成樹脂の原料となる化合物「アクリルニトリル」が主だ。レゾナックは、衣料などに使うアクリル繊維向けのアクリルニトリルの取り扱いが少ない。今後リサイクル原料を使った製品として消費者の支持を得ることができれば「国内外を問わず販売を検討する」という。トレーサビリティー(生産履歴の追跡)の取り組みも検討する。”

アパレル業界ではファストファッションの流行などで、使用済み衣料品の大量廃棄が問題になっている。日本総合研究所によると、国内での衣類の新規供給量は2020年で81万9000トン。その約6割にあたる51万2000トンが廃棄されたと推計する。アパレル大手は使用済み衣料品の回収に取り組んでいる。例えばスウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)はブランドや状態を問わず、古着を回収するサービスを展開。「ZARA」を展開するスペインのインディテックスも古着回収の取り組みを進める。”

回収後はリユースや自動車の防音材などへの転用、熱源としての焼却利用が中心だ。化学的に分解して再利用する「ケミカルリサイクル」と呼ぶ今回のような取り組みはまだ少ない。伊藤忠は繊維と化学品の両方を手がける総合商社の強みを生かし、使用済み衣類などを化学的に分解し、原材料にするポリエステル素材「RENU」も展開している。”

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