号外:蓄電池が普及期へ

発電量が天候に左右される再生可能エネルギーを主力電源とするためには、蓄電池の活用が不可欠です。世界的には普及が進んできていますが、地域間の偏りもあり、何より日本での普及が滞っていることが心配です。脱炭素を進展させるためには、政府による制度上の支援を含めて、実現性のある計画の策定が必要です。

2023年4月30日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“再生可能エネルギーの拡大に不可欠な蓄電池が普及期に入った。2023年に世界で新たに追加される容量は前年比87%増の30ギガワットと、5年で約10倍に増える。リチウムイオン電池の価格が5年で6割も安くなり、各国政府による多額の補助金も下支えする。もっとも、温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標には届いておらず、供給力の一段の向上が急務だ。”

世界の蓄電池市場

再生可能エネルギーの主力電源化に蓄電池は欠かせない。太陽光も風力も天候によって出力が左右される。発電に適したタイミングで蓄電池に電気をため、悪天候時に使う仕組みを整える必要がある。世界の蓄電池市場について、米調査会社ブルームバーグNEFが集計した。市場をけん引するのは、国を挙げて再生可能エネルギーの導入を進める中国だ。2022年には2021年比2.3倍となる5.6ギガワットの蓄電池を新たに導入した。全体の34%を占め、地域別で世界最大となった。全体の27%を占める欧州でも大規模な蓄電所の建設が相次いでいる。スペインの電力大手イベルドローラが2022年に2800万ユーロ(約41億円)を投じ、アイルランドで0.05ギガワットの大規模蓄電所を稼働させた。”

“一方、日本は全体の2%にとどまる。2015年まで各地で実証実験が行われ、世界最大の市場だったが、商用化で出遅れた。日本の再生可能エネルギーは発電した電気を需要の有無にかかわらず決まった価格で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)で普及したため、電気をためる用途で使われる蓄電池の需要が伸びなかった。ブルームバーグNEFによると蓄電池の追加容量は2030年に世界で87ギガワットと、2023年の3倍弱の規模に達するとみられる。2030年まで年平均23%で拡大する見通しで、蓄電池がようやく普及期に入ったといえそうだ。”

リチウムイオン電池の価格推移

“背景には課題だった製造コストが大きく下がったことがある。国際エネルギー機関(IEA)によると、蓄電池の一種であるリチウムイオン電池パックの価格は、2021年時点で1キロワット時あたり132ドルとこの5年間で6割下がった。政府による多額の補助金も後押ししている。米国ではエネルギー省が4月20日、屋根置きの太陽光や蓄電池などの導入に対し、最大30億ドル(約4000億円)の融資保証を行うと発表した。住宅に太陽光パネルと蓄電池の設置を促し、分散する電力を一括制御して運用することを想定する。仮想発電所(VPP)と呼ぶ技術で、時間や地域ごとに変動する電力需要を蓄電池で調整し、無駄なく電気を使える。

“既に蓄電池が電力安定の要になった地域もある。米国の再生可能エネルギーをけん引するカリフォルニア州では2022年7月に初めて蓄電池経由の電力供給が原子力発電所を超えた。再生可能エネルギーが余る日中などに電気を蓄電池にため、太陽光が陰る夕方の需要期に合わせて電気を供給した。電気が不安定な時間帯に化石燃料を使う火力に頼らなくても、蓄電池で補えるようになってきている。

“ただ、再生可能エネルギーの導入拡大に対し、蓄電池の設置ペースは追いついていない。IEAは世界の温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするためには、2030年までに累計780ギガワットの蓄電池が必要だとしている。ブルームバーグNEFの予想では500ギガワット程度にとどまり、不足分を火力発電所で補う状況が続く。政府の支援が手厚い米中欧に設置場所が偏るという課題も残る。”

電池の生産地が中国に集中しているリスクもある。IEAによると、2022年の世界のリチウムイオン電池の生産能力は中国が62%を占める。電気自動車(EV)向けの蓄電池では寧徳時代新能源科技(CATL)が世界一を独走する。米中対立が激化する中、バイデン米政権は蓄電池の国内製造を促す。2022年に成立させたインフレ抑制法(IRA)は米国で蓄電池を製造した場合に税金を控除する仕組みで、企業からは新規投資が相次ぐ。EUも早期成立を目指す「ネットゼロ産業法案」で蓄電池の域内生産を推奨する。

“脱炭素に欠かせない蓄電池は、世界的に政府の補助金によって普及が進む構図が今後も続く。日本でも再生可能エネルギーの発電量が増加するなか、九州電力や中部電力の管内では電力が余り、再生可能エネルギー事業者に出力の抑制を要請する出力制御が起きた。需給の調整に蓄電池は欠かせない。国内の蓄電池産業への支援に加え、家庭や系統用の蓄電所への投資を促す政策が必要となる。”

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