鉄のリサイクル:衣料品の話ではありませんが

2014年度の日本のCO2総排出量は12億6700万トンです。その中で製造業が排出しているCO2の内訳で(2014年度 製造業全体で4億2600万トン)、鉄鋼業は最大の45%を占めています。その一方で、鉄はリサイクルが非常に進んだサステイナブルな素材でもあります。

日本の製造業のCO2排出

鉄の製造工程には大きく分けて2つあります。鉄鉱石を還元・精錬して鉄(銑鉄)を作る高炉と、回収したスクラップを溶かして鉄を作る電炉です。一般に、高炉の場合は鉄1トンあたりのCO2排出量は約2トン、電炉の場合はおよそ4分の1の約0.5トンと言われています。ここだけを見て、電炉の方が高炉より環境負荷が少ない優れた工法だということはできません。理由は、回収されたスクラップも元々は高炉で生産されたものだからです。鉄は元来リサイクル性に優れた素材で、ほとんど無限に繰り返し使えます。2つの工法は一連のライフサイクルの中にあり、その部分だけを取り出して優劣を考えることにはあまり意味がないように思います。電炉用のスクラップを得るためには、もともとの高炉で生産された銑鉄が必要で、さらに回収・分別・運搬などのプロセスがあり、そのための環境負荷が発生しています。大切なことは、鉄はほとんど無限に繰り返し使える素材であり、そのためのリサイクルシステムが定着しているということです。

鉄のリサイクル イメージ

これまでに高炉で生産された鉄が社会の中に蓄積されています。その蓄積を背景にスクラップの利用(電炉)は拡大してゆくでしょう。現在社会の中に蓄積されている鉄が、今後の世界での鉄需要を満たすのに十分であれば、今後は高炉での生産が減少し、電炉のリサイクル鉄で賄えることになり、鉄鋼業からのCO2排出は減少することになります。世界の鉄需要が今後も伸びてゆくのであれば、高炉による銑鉄の生産+電炉によるスクラップの活用で、需要を賄ってゆくことになります。鉄は社会インフラとして、建築材料として、移動・輸送手段として、その他様々な分野で私たちの生活に必要な製品を作るための素材です。高炉と電炉というだけでなく、鉄鋼業としてCO2の排出削減、環境負荷低減のための技術革新を進めて欲しいと思います。

鉄のリサイクルが進んでいるのには理由があります。(一般社団法人日本鉄鋼連盟HPより)

*分別が簡単にできること

鉄鋼材料は磁性を持ち、磁力選別によって容易に他材料と分別ができます。シュレッダーダストやその焼却灰などに含まれる微小な鉄片でさえも回収できます。

*再生利用のための負荷が低いこと

材料の再生利用によるエネルギー消費や環境負荷が天然資源からの製造の場合より大きくなってしまっては、本来のリサイクルの目的に反します。鉄スクラップは電炉で容易に鉄鋼製品に再生することができます。

*経済合理性がありリサイクルシステムが整備されていること

リサイクルにかかる費用が大きければ、持続可能なリサイクルシステムは実現できません。スクラップの回収、原料としての利用も経済合理性の中で行われています。

*多様な製品に再生可能であること

鉄鋼製品の多様な特性は、主として生産工程における温度制御、加工(圧延等)制御から生まれます。鉄スクラップは電炉で溶解された後、新しい生産工程を通ることで多様な製品に生まれ変わります。

*リサイクルによる材料品質低下が生じにくいこと

リサイクルによって材料の品質低下が生じてしまうと、何度もリサイクルすることが困難になります。鉄の場合、多くの元素(不純物)を精錬の過程でガス化あるいは酸化して除去することができるため、不純物による品質低下を招きにくいという優れた性質をもっています。このことが鉄鋼材料の無限のクローズドループ・リサイクル(closed-loop recycling)を可能にしています。

これに比較して衣料品リサイクルの場合は、先ず精度の高い素材分別や不純物の除去が難しく、そのためにリサイクル後の用途に制限があります。またリサイクルに要する手間を考えるとバージン製品(天然資源から生産する未使用製品)の方が経済的であったりとか、リサイクルに関する難問が山積しています。しかし簡単にあきらめるのではなく、衣料品としての環境配慮に知恵を絞ってゆくべきと思います。

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