号外:「人新世(じんしんせい)」代表地にカナダの湖

このところ「人新世」という言葉をちょくちょく目にするようになりましたが、なぜ「人新世」という概念が必要なのかという背景については、ちょっと考えさせられるところがあります。人類の(無秩序な)繁栄が地球に及ぼした(あまり好ましくない)影響が近年加速度的に増大しており、その活動が地層に痕跡を刻み始めた時期を地球史に残すために、新たな地質年代を設けなければならないというものです。しかもそれは1950年代以降という、地球の46億年という長い歴史からみれば、つい最近のほんの瞬きをするような期間の出来事なのです。

新年代「人新世」を検討、やりすぎた人類が地球史に残した爪痕>の項を参照

2023年7月12日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

地球史の区分

“国際学会「国際地質科学連合(IUGS)」の作業部会は7月11日、人類活動が地球環境に大きな影響を及ぼす時代「人新世(じんしんせい)」を20世紀半ばからの新たな地質時代とし、代表地にカナダ東部のクロフォード湖を選んだと発表した。今後、上部組織での審議を経て2024年にも最終決定する。同日、クロフォード湖の研究を主導したカナダ・ブロック大学のフランシーン・マッカーシー教授は記者会見で「(人新世の代表地に選出されたことは)重要な一歩だ。この仕事に参加できたことを光栄に思う」と述べた。地質学者らでつくるIUGSは地質に残る人類活動の痕跡を検討する「人新世作業部会」を2009年に設置し、世界12の候補から代表地点を選ぶ作業を進めてきた。”

“現代は地球史の中では直近の氷河期が終わった1万1700年前から続く完新世とされてきた。1950年ごろから世界人口が急増して人類の活動規模が大きくなり、地球環境に大きな影響を与えていることが地層の分析から分かってきた。そこで作業部会は完新世の終わりを1950年ごろとし、それ以降を新たに人新世とすべきだと提案した。人新世の始まりを最もよく示す地質学的な証拠として、カナダ東部オンタリオ州に位置するクロフォード湖の底にある堆積物を選んだ。

“ブロック大などの研究チームがクロフォード湖の堆積物の成分と積もった年代を調べた結果、化石燃料を高温で燃やした時だけ発生する「球状炭化粒子」という物質が1950年代に急増していることが分かった。人類のエネルギー消費量が増えたことを示している。また、放射性物質のプルトニウムが1950年ごろの地層で増えて、その後減った。世界各地で核実験が実施されてプルトニウムが大気に広がったが、その後の実験禁止によって放出されなくなったことが分かる。”

“クロフォード湖は五大湖の近くに位置し、面積は東京ドームの約半分の約2.4ヘクタールと湖としては小さいが最も深い場所は推進24メートルに達する。湖の深い部分は塩分濃度がやや高く大型の生物が生存しづらい。堆積物が生物活動によって乱されにくい。当時の環境を年ごとにさかのぼって調べやすく、代表地に選ばれる要因になったとみられる。候補の一つだった大分県の別府湾は落選した。愛媛大学などの研究チームがごく微量のプルトニウムや、プラスティックごみが砕かれた「マイクロプラスティック」などを見つけた。ただ、作業部会のメンバーらが候補地を比べた論文では、別府湾の地層に過去の地震などで堆積物が乱された層があることを指摘していた。こうした点が落選要因になった可能性がある。研究を主導した愛媛大の加三千宣准教授は「結果は残念だが、別府湾の地層からは人類活動の多くの痕跡を見いだせた」と話す。”

“人類活動の影響の大きさは様々な研究から明らかだ。イスラエルのワイツマン科学研究所は2020年、人工物の総量が全生物の量に匹敵するまでになったと報告した。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人類活動が地球温暖化を引き起こしたことは「疑う余地がない」とする。IUGS作業部会の議長を務める英レスター大学のコリン・ウォーターズ名誉教授は「人類活動の影響は良くも悪くも急に生じうる。その点では希望がある」と話す。愛媛大の加准教授は「人新世の基準地を決めることは、人類が今後どうすべきかを考える契機になるだろう」とみる。”

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