号外:人類の危機、現在の温暖化を直視せよ!

8月8日未明に発生した米国ハワイ州マウイ島の山火事では、折からの強風に煽られた火の手が観光地であるラハイナを壊滅させました。いまだにその被害の全貌がつかめない大惨事ですが、原因の一つとして気候変動による熱波と異常な乾燥が挙げられています。日本でも台風や集中豪雨による災害が頻発しているように、地球温暖化による危機は決して将来のことではありません。今、私たちの身近にある危機なのです。

「パリ協定」は、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑えることを目標としています。この目標を達成するために、2050年までに温暖化ガスの排出量を「ネットゼロ」にすることが求められています。米航空宇宙局(NASA)と米海洋大気局の最新データによると、2023年半ばの今の時点で、世界の地表温度はすでに約1.25度上昇しています。平均した気温の上昇幅は約1.25度ですが、世界各地の環境や気候は一様ではなく、すでにいたるところで熱波や干ばつによる深刻な被害が顕在化しています。下記の記事は、地球温暖化の進行を抑制することはもちろん大切ですが、将来(2050年頃?)のリスクを懸念するだけではなく、今現在すでに発生している気候変動による被害をしっかり認識し、対応していくことの重要性を指摘しています。非常にもっともな指摘だと思います。

2023年7月28日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事(英FINANCIAL TIMESからの転載)より、

“筆者は3年半前の大みそかを決して忘れることができない。その理由はハウスパーティーが華やかで素晴らしかったからとか、花火がまばゆいばかりだったからというのではない。オーストラリア南東部の海沿いの小さな町で、瞬く間に広がった山火事によって町を出る唯一の道路が通行不能になり、身動きが取れなくなったからだ。すべての昼食は灰に覆われ、まだ午後3時だというのに空は真っ黒だった。しかし、ちょっとした運とニューサウスウェールズ州の勇敢な消防隊のおかげで、翌日にはけがもせずに現地から脱出することができた。”

“この話を持ち出したのには2つの理由がある。第一は、オーストラリアで2019~20年に過去に例のないほど森林火災が発生したのは、地球温暖化による気温上昇と乾燥という長期にわたる明確なトレンドが一因としてある。第二には、人間にとって理想的な居住環境とは山火事が起きるような状況とは縁遠いはず、という点だ。それは、40度あるいはそれに近い気温が長期にわたって続くような環境でもないはずだ。しかし近年、アジア、南欧、米国南部の人口の多い地域では、こうした酷暑が日常化している。もし人間が新たな惑星に住もうとなったら、日中に屋外に出れば命が危険にさらされ、そのために厳しい環境から身を守るべく建物内と車の中を急いで行き来せざるを得ないようなところを選ぼうと思うだろうか。そんなことはないに違いない。だが、最高気温が(7月21日時点で)26日連続で40度を超えている米アリゾナ州フェニックスは、どういう理由からか米大都市の中で最も急速な成長を遂げている。

“こうした理解に苦しむ現象が起きている理由の一つは、気候変動に関する議論のほとんどが、今後状況がさらに悪化するリスクばかりを強調しているからではないかと筆者は危惧している。それは理解できないわけではないが、将来ばかりを気にしていると、今すでに起きていることに目がいかなくなりかねない。そして熱波や森林火災が起きても我々は何とか対応していつもの生活を続けていける、乗り越えていけると言いがちだ。しかし、現実にはいつも通りの生活をもはや続けられなくなっている人の数は急増している。アリゾナ州はもともと非常に暑いところだというのは大いに結構だが、暑さにも程度と言うものがある。

“アリゾナ州で「自然界の熱に過度にさらされた」ことが原因で死亡した人は、1970~90年は年平均16人だったが、1990~2015年は同38人に増え、2020年には210人、2022年には257人と急増している。これらの人数は、猛暑による超過死亡率の推定値ではない。推定値の場合、算出方法が異なれば異なる数値が出てくる。この数字は猛暑が直接の死因だと監察医によって実際に判断された人の数だ。その中には表面温度が82度に達した舗道に触れ、ひどいやけどを負った人もいる。これは50年後の予測ではなく、今、現実に起きていることだ。

我々は、人が実際に見たり感じたりすることよりも、抽象的な統計を相変わらず重視しがちだ。この傾向こそが、気候に対する不安が高まる中、人類がゆっくり沸騰していく鍋の中のかえるのような存在であり続けるリスクをますます高めている。産業革命以降の地球の気温上昇幅を2度以内に抑えることに焦点を当てるのは理解できる。だが「2度以内」というのは、①数値としてわずかにしか感じられない②「将来」の目標でしかない③私たちの日常生活とあまりに直結していない④平均気温であるため、実際に各地の気温がどうなっているかの説明に全くなっていない、といった問題がある。”

平均気温の上昇ばかりに目がいくと、人々の命を奪い、生活を根本的に変えてしまう極端な気温の上昇がわかりにくくなってしまう。米航空宇宙局(NASA)と米海洋大気局の最新データによると、2023年半ば時点で、世界の地表温度は産業革命以降の上昇幅を2度以内に抑えるという目標に対し、すでに約1.25度上昇している。これらの数字は現実世界とは無関係に我々の頭の中を飛び交っているが、重要なのは平均値が上昇すれば極端な値もさらに押し上げられることだ。

現在、アリゾナ州の州都フェニックスが猛暑に見舞われる日数は1950年代の4倍に増えており、パリは8倍、ロンドンは10倍だ。こうした苛酷な日々はすでに重大な被害をもたらしており、数多くの人の直接的な死因となっているほか、多くの人々が日々の生活よりもそれに対処することを強いられている。地球温暖化は人類を脅かしている。各国政府にとってもその国民にとっても、明日の状況がさらに悪化するのを防ぐ最善の方法は、今日すでに起きている深刻な事態を直視、認識し、それに対処することである。

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