「フィッター」ってどんな仕事?

店頭で洋服を購入するときに、目安になるのがサイズ表示(S、M、Lなど)ですよね。サイズを確認して、さらに試着することもありますし、Tシャツやポロシャツなどの場合は、サイズを確認しただけで購入することもあります。サイズは大まかな目安ですが、アパレル各社は、ブランドやスタイル、デザインごとにより細かい部分の寸法や形状、縫製を工夫して、より快適な着心地を提供しています。そのような服作りの丁寧さが、購入した消費者の満足感、安心感につながり、リピーターを生み出しているようです。

2023年9月2日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“洋服を購入する際、頼りになるのがS・M・Lなどのサイズ表記だ。その裏には、店頭に並ぶまでに年間で延べ何千着もの試着をこなし、ミリ単位の調整を重ねることで着心地の良い商品を届ける「フィッター」という存在がいることをご存じだろうか。カジュアル衣料品のバロックジャパンリミテッドの商品検討会議に潜入し、仕事ぶりを取材した。”

“池ノ上真吾さん(47)は主力ブランド「アズールバイマウジー」のフィッターだ。メンズ商品を年間で延べ2000着以上試着している。同ブランドの商品企画マネージャーを努めつつ、フィッターとしても服作りに大きく貢献している。同社にはブランドごとに約40人のフィッターがいる。フィッターはシーズンのたびに発売するアパレル商品を試着し、ブランドのコンセプトに合っているかどうか、サイズ感が適切かなどについて確かめる。

“アパレル商品の開発は、商品が店頭に並ぶ11ヶ月前から本格的に動き始める。例えば9月には翌年8月の企画がスタートする。同ブランドのメンズ商品では、年間700前後の商品を検討する。池ノ上さんは1商品につき3回程度試着することが多く、試着数は延べ2000着以上になる。8か月前には発売月に投入する商品の数などを決める。例えば「シャツを30種類発売する」という具合に発表する商品数をアイテムごとに決めていく。前年の売れ行きや流行などを加味しつつ、その枠に対して具体的にどのような商品を作るか企画を考える。7か月前に生産担当者にサンプル作成を依頼し、6ヶ月前には完成したサンプルを試着するフィッターの出番となる。”

“フィッターが大量の服を試着するのが商品検討会議だ。商品企画や生産、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)らが出席する。池ノ上さんが実際に着ている姿を見ながら、サイズや素材、デザインについて1点ずつ確認し議論を重ねる。時間は1点につき5~10分ほど。約50着を試着することもあり、検討会は数時間に及ぶ。1つの商品が完成するまでに複数回、修正することが多いという。サイズ感や素材、デザインなど修正箇所は多岐にわたる。池ノ上さんが「着心地が良くない」と言うと生産担当者がすぐに「ここの縫製のバランスが悪い」など原因を見つけて指摘。その後の修正につなげていく。生産を依頼するメーカーや工場ごとに縫製のやり方や得意な工程などがあり、詳細部分まで突き詰め検討していく。”

フィッター

“アズールバイマウジーでは体のラインに合う、ぴったりとしたスキニーパンツやTシャツなどが人気を集めていることもあり、わずかなサイズの違いが見た目や着心地に大きく影響し、売れ行きを左右する。商品検討会の終了後の別の日により細かい寸法を確認し、例えば首まわりは5ミリ単位で最適な長さを検討するなど、まさにミリ単位の調整が続く。サイズごとにフィッターがいるわけではない。アズールバイマウジーの場合、池ノ上さんがMサイズを試着・修正した後に長さを調整してSやLも作っている。例えばボトムスのウエストなら、SはMに比べて2センチメートル小さい。日本人男性の平均身長に近い170~175センチメートルほどで「男らしさ」「艶っぽさ」などというアズールバイマウジーのブランディングに合う体形の人を選んだ結果、池ノ上さんに白羽の矢がたった。池ノ上さんの身長も172センチメートルだ。”

だからこそMサイズの基準となっているフィッターの体形が変わってしまえばブランド全体のサイズがぶれかねない。そのため、フィッターは日ごろから体形維持が不可欠となる。急に「このサンプルを着てほしいから体を貸して」といった依頼もあり、常に気は抜けない。池ノ上さんはフィッターを務めるにあたって体重を3キロ落としたという。体を絞る中で週1回ほど走るようになり、どんどんマラソンにのめり込んでいった。現在も月に200キロメートルほど走る。細くなりすぎるのもよくない。体重は67キログラムをキープしている。”

“池ノ上さんはフィッター歴7年目だが、当初は上司や先輩社員らが自分のまわりで着心地や修正すべき点などを話し、何もできずに「棒立ち状態となることもあった」という。現在は池ノ上さんが積み重ねてきた「着用の感覚」と過去に試着して販売した「商品の売れ行きデータ」の2軸をもとにして、サンプル商品を着用した瞬間にゆとりや長さ、こまかなデザインなど「この部分が違う」といった判断ができるようになったという。

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