国内アパレルの過剰生産の現状:これはサステイナブルではありません

もう1年ぐらい前の(2018年9月25日)日本経済新聞電子版の記事なのですが。

アパレル業界が売れ残った新品の衣料品を大量に廃棄している実情が明らかになり、消費者から批判が高まっている。服は綿花、羊毛などの農畜産物や、石油化学素材で作る。製糸から縫製まで多くの人手が要る労働集約型の産業である。資源と労働の価値を無駄にしないためにも、アパレル業界は生産や販売の適正化に取り組むべきだ。

“大量廃棄問題はネット上で廃棄現場の写真が出回り、広く知られるようになった。英高級ブランドのバーバリーは服や香水など約41億円相当(販売価格ベース)を燃やして捨てていた。激しい批判でブランド価値の低下を恐れた同社は、廃棄処分を中止して再利用や寄付に回す。”

バーバリーのような高級ブランドの自社製品廃棄処分について環境保護団体は、「値段の高さに反して、バーバリーは自社商品とそこにかけられた労働力や天然資源に一切の敬意を払っていない。余剰在庫の拡大は過剰生産を意味している。バーバリーは生産を引き下げる代わりに素晴らしい衣料品や製品を焼却している。」と非難しています。

「売れ残り」はバーバリーのような高級ブランドだけの問題ではありません。2019年6月13日の日本経済新聞に掲載された記事からですが、大変ショッキングなニュースです。

“アパレル業界のセール頼みに歯止めがかからない。2018年に市場に投入された衣料品のうち、実際に販売されたもの(正規販売、セール、アウトレットを含む)は46.9%にとどまり、約30年前と比べて半減した(1990年は同じ計算方法で96.5%)。アパレル大手は在庫管理の精度を高めることで、需要に見合った生産への転換を急ぐ。”

国内衣服の受給バランス

このグラフは日本国内の衣服(下着類は除く)の需給バランスを示しています。1990年頃は衣服の供給量と消費量がほぼ見合っていましたが、2017年の供給量は約28億着、消費量は約13億着で、余剰在庫は年間の消費量を上回る約15億着となっています。これはとんでもない数字です。この売れ残り在庫(未使用品)の大半は「中古衣料」として海外に輸出され、一部はブランドイメージを守るために廃棄されているものもあるようです。

グラフからもわかりますが、アパレル業界の過剰生産は1990年頃から始まったようです。大量生産が主体のカジュアル衣料が台頭し、アパレル各社は生産コストを抑えるために海外縫製にシフトしてゆきました。経済産業省製造産業局生活製品課の資料によると、1991年の衣料品の輸入比率は52%ですが、2017年には98%と大きく伸長しています。海外縫製でコストを抑えるためには一定量以上の発注をしなければなりません。このため需要以上の発注をすることが常態化し、余剰在庫が発生し、それを安値で処分(輸出)することがアパレル企業の業績を圧迫するという悪循環が繰り返されてきたようです。

アパレル企業は「ファッション」を扱っているので、シーズン毎にある程度の売れ残りが出てしまうことは避けられないのですが、できるだけ過剰生産にならないように工夫するのは当然のことです。ところが年間の消費量以上の余剰在庫が発生するような生産をしているとしたら、それは資源と労力の無駄遣いでしかありません。とても環境に配慮した企業の行動とは言えないでしょう。

ファッション衣料のサステイナビリティについて、主として消費者側から排出される使用後衣料品を対象に考えているわけですが、それを上回るような規模で生産者側から排出(処分、輸出)される未使用衣料品があるというのは信じ難いことです。アパレル企業には、需要に見合った適正な生産を行い、資源や労力の無駄を省き、不必要な廃棄物を発生させないように生産体制の見直しをお願いしたいと思います。

その一方、消費者側で考えなければならないことはないでしょうか。このところあまり聞かなくなりましたが、一時期は「ファストファッション」という言葉をよく耳にしました。ファストファッションの意味は、「最新の流行を採り入れながら低価格に抑えた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・販売するファッションブランドやその業態」と言われています。「最新の流行」=「ファッション」ですが、これは言葉を換えれば「大量生産して大量消費し、(使用後衣料品を)大量廃棄する」と言っているのと同じように聞こえます。このような消費の傾向が、アパレル企業の過剰生産・余剰在庫の要因のひとつになったと思います。これはもうライフスタイルの問題になりますが、「ファストファッション」を仕掛けた企業も、それを喜んで受け入れた消費者も、環境に配慮した生産・消費行動についてもう一度考えてみるべきだと思います。いったん生産された衣料品は、純度の高いケミカルリサイクルが実現しない限り、最後は必ず廃棄物になります。現在の技術では、衣料品に鉄やアルミ、PETボトルのような高効率のリサイクルは望めません。日本では衣料廃棄物はほとんどの場合焼却されます。焼却されればCO2を排出します。衣料廃棄物を削減するためには、気に入った服を長く使い、最大限のリユース、リサイクルに努力するしかありません。「ファッション」と「経済合理性」と「環境配慮」のバランスを考慮した生産、流通、消費そして回収、リサイクル、廃棄の仕組みを作ってゆくことが、衣料品の分野から持続可能な社会(サステイナビリティ)の構築に貢献してゆくことだと思います。

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