号外:浮かぶ巨大風車:長崎の洋上風力発電

2019年9月21日の日本経済新聞電子版に掲載された記事です。

“洋上風力発電が日本でも本格始動する。経済産業省は国内4か所を有望区域に選び、このうち長崎県五島列島にある福江島(五島市)の沖合では浮体式洋上風力発電の実証実験が進む。本格導入には技術的な課題解決だけでなく、海域の先行利用者である漁業関係者との合意形成を進める。”

洋上風力発電の検討区域

“五島市は2014年に再生可能エネルギーの導入を推進する「五島市再生可能エネルギー基本構想」を発表し、2030年までに同市の再生可能エネルギー自給率を100%以上まで引き上げることを目標に掲げている。その一翼を担うのが沖合にある洋上風力発電だ。”

“巨大な3枚羽根の風車はビル20階に相当するタワーの先に取り付けられている。海中には約80メートルの浮体が沈んでおり、釣りの浮きのような仕組みで海上の風車を安定させている。福江島の風車は欧州の洋上風力発電で主流の海底に基礎部分を固定する「着床式」ではなく、浮体によって海に浮かべる「浮体式」(フローティング)だ。海中では直径7.8メートルの円柱状の浮体が海底に向かって76メートルあり、海上の風車を支えている。”

洋上風力発電のブレード

“風車は風の向きや強さに応じて、方向や羽根の角度を調整できる。台風の接近などで所定の風速を超える場合は、風車の回転を止めて風を受け流し、故障を防ぐ仕組みだ。3枚の羽根を回転させて発電した電気は海底ケーブルを通じて5キロメートル先の陸地まで送られる。発電能力は2,000キロワットで、五島市の世帯数の約10分の1にあたる一般家庭約1,800世帯分の電力を賄うことができる。”

“日本では洋上風力発電が盛んな欧州などに比べると着床式に適した遠浅の海が少ない。しかし浮体式であれば、着床式に比べて導入可能な海洋面積が約5倍あるとされている。実証実験のために1年を通じて安定した風量が見込める海域を調査し、複数の候補から福江島が選ばれた理由は、台風の進路になることが多いからだ。日本で洋上風力発電を導入するには台風への対策が不可欠だ。あえて台風による故障などのリスクがある福江島を選びノウハウを蓄積している。”

前に、欧州の洋上風力発電についてご紹介しました。

洋上風力発電:期待される再生可能エネルギーの活用>の項参照

海に囲まれた日本での、サステイナブルな脱炭素社会を目指した再生可能エネルギーの検討では、洋上風力発電に大きな期待がかかります。その実証実験が長崎県の五島列島沖で進んでいます。日本では遠浅の海が少ないため、五島列島沖での実証実験は「浮体式」で行われます。その他の3か所では「着床式」が検討されているようです。台風だけではなく、課題はたくさんあります。洋上風力発電では欧州が先行していますが、このため大型の風車や洋上風力発電用の発電機の開発も欧州が進んでいます。また風車などを設置するための特殊な作業船や、その母港となる港湾施設の整備も、日本ではこれからです。これらを含めて、当初はすべてが割高になりますから、規模を拡大した場合のコスト低減も大きな課題です。

風車の設置場所周辺の漁業関係者との合意形成も重要な課題です。風車の設置が周辺の生態系に影響して漁獲高が減少することを懸念する関係者もいます。風車の海中部分の構造物が漁礁の役割を果たし、魚が集まるのではないかという見方もあります。いずれにしても実証実験を続ける中で慎重に見極める必要があります。

日本の2015年度電源別発電量では、火力発電が85%を占めていました。燃料は(石炭、石油、LNG等)輸入です。CO2の排出が多い火力発電から、燃料の輸入に頼らない国産の再生可能エネルギーを活用した発電への転換は、日本がサステイナブルな社会に移行してゆくために必要なことです。洋上風力発電にしろ、海流発電にしろ、技術課題が山積した難しい開発テーマでしょうが、着実に進んでゆくことを期待したいと思います。

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