ウクライナ、戦時下のファッション

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻しました。今も戦闘が継続していています。苦難と悲しみに覆われた戦時下の街でも、人々の日々の生活は続いています。そして、その生活に寄り添うファッションもあります。この戦争がいつ終わるのか見通しは立ちませんが、一日も早くウクライナの人々に平和と平穏な日常が戻ることを祈っています。

2023年11月14日付け日経クロストレンド電子版に掲載された記事より、

“2014年に勃発したウクライナ東部ドネツク州とルハンスク州のドンバス戦争から8年後の2022年2月24日、ロシアはウクライナに対してさらなる軍事侵攻を開始した。報道では日々悲惨な戦場の様子が伝えられる中、戦地の人々は暮らしを営み、ビジネスを継続し、経済を回し続けている。実は戦争が始まってからのウクライナでは、国内発のアパレル産業が急増しているという。”

爆撃を受けるかどうかは誰にも分からない。危険を回避してシェルターに潜る人もいれば、その煩わしさを避け、自分や家族、知り合いの身に何か起こればそれは国のためとか、不運だったと解釈して、普通の生活を優先する人もいる。国民の大半は、長期化する「戦争疲れ」からか、自分たちの生活を最優先し、いろいろなことに折り合いをつけているように見える。人々は空襲警報のアラームを切り、戦争に関する情報を極力避け、できるだけ普通に生きていくように努めている。“

“2022年2月24日から始まったロシアのウクライナ全土への軍事侵攻で、ウクライナ国内の空港は全て閉鎖され、旅客機の運行がストップした。そのため、これまでの物流は大幅に減速し、経済活動に大きな打撃を与えた。現在、輸出入は長距離トラックでの陸路運搬が主流となっているが、入国審査や手続きなどで、国境付近には常に長い列ができている。ウクライナに拠点のあった多くの企業も、撤退や近隣諸国に移転せざるを得なくなった。アパレル業界もそうした影響を大きく受けたひとつだ。ショッピングモールを歩いていると、閉店している海外ブランドを見かける。海外からの商品輸入が減った結果、ここ数年でウクライナ発のアパレルブランドの数が一気に増えているという。30代前後の女性に人気があるブランドのひとつが「Must Have」だ。”

“Must Haveは、元ジャーナリストだったアナ・ドブロバルスカヤCEO(最高経営責任者)が、大学で出会った友人と2010年に立ち上げたアパレルブランドだ。ターゲットは30代半ばのアクティブでおしゃれを楽しむ女性。ミドルプライスで品質もよく、購入者は30~35歳が最も多いそうだ。現在、キーウのショッピングモールを中心に8店舗を展開し、オフィスも含めて165人の従業員を抱えている。アナ氏はキーウ郊外のベルディチワ出身で、そこに工場を構え、地元の雇用促進にも力をいれている。”

2022年のロシアのウクライナ侵攻が始まった当初、ロシア軍がキーウのパワープラントを爆撃したことで、電力の供給がストップ。3ヶ月間、全てのショップで営業できなかった時期があった。しかし同年5月には、経済活動を止めるべきではないと主張したゼレンスキー大統領の呼びかけで、大型デパートに発電機が配置されたのを機に営業を再開した。その一方で、リスク回避を優先する海外ブランドの直営店舗は、現在も営業を再開していないところが多い。”

“アナ氏は、軍事侵攻が勃発してから新たに始めたマーケティングがあると語る。「マーケティングの一環として『ナショナルコレクション』というラインを始まました。『ヴィシヴァンカ』と呼ばれるウクライナの伝統刺しゅうを取り入れたデザインや、愛国心を表す文言を入れたデザインの製品がそうです。すべてのコレクションの中でも、ナショナルコレクションは特に人気があります。戦争に対して士気を高めるものを身につけるのは、自分自身のアイデンティティーの確認にもなりますし、それを目にする周囲の人のメンタルも保てるという重要な役割を果たしていると思います」。”

“ウクライナの街を歩いているとよく見かけるのが、ウクライナの国旗やひまわりなど国を象徴するデザインの洋服をまとった人々の姿だ。中には市民が挨拶の代わり多用する言葉、「スラーバ・ウクライナ(ウクライナに栄光あれ)」の文字や、士気を高めるようなフレーズが刻まれたTシャツなどを着ている人も多い。現在はウクライナ発のほとんどのブランドが、このナショナルコレクションラインを製造しているという。”

“また、戦争を機に人々が始めたこととしてボランティア活動がある。国民一人一人が国を支えるため、何らかの形でボランティア活動に参加したり、団体に所属したりしている。企業が担うボランティアの役割も大きい。Must Haveでは、アパレル業界ということもあり、兵士が着用する目出し帽や戦場で着用する衣類を生産し、戦地へ送る支援活動を行っている。

戦争という特殊な環境の中で生み出される人々の需要の変化と産業。戦争が始まってから、今まで安価なものを選んでいたが、時間の経過とともに少し価格が高くてもより質の良いものを求めるようになったとか、欲しくても躊躇していたものを思い切って買うようになったという人も多い。明日どうなるか分からない不安定な日々に置いて、「服を買う」という日常的な行為が人々に平時を感じさせ、メンタルの安定に大きく結びついているような気がしてならない。

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