号外:COP28 at UAE、信頼を取り戻す場に

第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)が11月末からUAEで開催されます。その議長を務めるスルタン・ジャベル氏へのインタビュー記事です。「これまでの合意を具体化し、行動しなければならない」という強い決意で会議に臨む意向です。下記の記事に含まれている内容は、どれもこれも重要なポイントで、必ず具体化しなければなりません。その一方で、現在世界各国は様々な理由で分断の危機にあります。地球温暖化対策という地球規模(全世界)で協力しなければ対処できない課題に対して、どこまで協力体制を築くことができるのか。非常に難しい状況ですが、決して後戻りはできません。議長および議長国の、そして世界各国関係者の最大限の努力を望みます。

2023年10月4日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)は気候変動に対する戦いの重要な節目だ。パリ協定の発効後、温暖化対策の進展を確認する「グローバル・ストックテイク」を初めて実施する場となる。アラブ首長国連邦(UAE)は温暖化対策の野心を弱めるのではないかという者もいるが、逆だ。私は気温上昇を1.5度以内に抑えるためにすべてを集中させてきた。これまでの合意を具体化し、行動しなければならない。

“そのために4つの議論の柱を設定した。まず、公正で秩序あるエネルギー転換をいかに迅速に進めるかだ。これには2つの道を並行して追及する必要がある。ひとつは既存エネルギーシステムを脱炭素化することだ。同時に新しいエネルギーシステムを構築していかねばならない。化石燃料の段階的削減は不可避だ。このことを受け入れる一方、新しいエネルギーシステムの構築を進めつつ、石油・天然ガスが中心の既存のエネルギーシステムの脱炭素化に投資する必要がある。”

再生可能エネルギーを3倍に増やし、エネルギー効率を2倍にすることを呼びかけている。需要サイドの取り組みは重要だ。省エネルギーは最も簡単で、速く、安く実現できる「第1のエネルギー」であり、最優先で取り組む課題だ。安価で安定的な低炭素エネルギー源としての原子力の活用も支持する。水素やアンモニアは将来のエネルギー需要を満たすうえで重要な役割を果たす。普及には仕様を標準化し、政策や規制の枠組みを整える必要がある。市場が形成されれば投資が始まる。技術の実用化と拡大に取り組まなければいけない。”

エネルギー安全保障と脱炭素、経済成長を同時に実現しなければならない。いずれかだけを追求することはできない。脱炭素と経済成長のバランスをとることが求められている。カーボンニュートラルに至る道筋や方法は様々であり、各国の状況によって異なることも理解することが欠かせない。それぞれの国情に応じ、エネルギー安全保障と脱炭素への独自のアプローチを構築しなければならないことを、柔軟に受け入れる必要がある。”

2番目の柱は気候ファイナンスの問題だ。途上国支援のために10年以上前に約束しながら、いまだに目標に届かない1000億ドル(約15兆円)の支援を実現させる。気象災害の被害を受ける途上国を支援するための「ロス&ダメージ基金」も重要な課題だ。エジプトで昨年開かれたCOP27で設置が決まった。基金の運用に向けて、資金の調達に合意できるよう懸命に働きかけている。私は世界中を訪れ、市民社会、非政府組織、科学者、金融関係者、起業家、中小企業などあらゆる人々と意見を交換した。彼らの期待は高いが、信頼は低い。長年にわたり多くの約束がされながら、実現せず現実に結びつかないからだ。COP28ではプロセスに対する信頼と信用を取り戻す。

3番目の柱として、人間や生命、生活の問題に焦点を当てたい。食料や水、健康を議題に組み入れる。これらはCOPの議論では上位になかったが、今回は気候変動対策の最優先課題にしたい。生態系の保護・回復を含め、包括的なアプローチで取り組む。”

“そのうえで、4番目の柱として、完全な包摂性に支えられた議論にしていきたい。女性や若者、先住民、国ごとのコミュニティーなどすべての人の声に耳を傾ける。世界は多極化と分断が進む。気候変動のために団結しよう。グローバルの課題へ対処できることを証明しよう。異なる意見に耳を傾け、世界的な課題に協力する考えを持ってドバイに集まることを信じて疑わない。

*分断をどう埋めるか:編集委員 松尾博文氏

UAEのドバイで開くCOP28まで2ヶ月弱に迫った。異常気象が頻発し、温暖化対策の加速が急務となるなかで、新興・途上国と、先進国の分断を埋め、取り組みを前進させられるのか。ジャベル氏は難しいかじとりを迫られる。ジャベル氏は気温上昇を1.5度以内に抑える目標の実現に強い決意を見せた。「合意を具体化する」と指摘、途上国側が求める資金援助に道筋をつけることに意欲を示した。再生可能エネルギーの拡大を訴える一方、石油・ガスを中心とする既存のエネルギーシステムの脱炭素化を並行して進める点を強調した。発言からにじむのはCOPの結束への思いだ。UAEは世界有数の産油国だ。国営石油会社のトップであるジャベル氏がCOPの議長を務めることに批判もある。ただし、UAEのエネルギー政策の司令塔に就く原点は、今も会長を兼ねる政府系再生可能エネルギー会社マスダールでの経験だ。化石燃料と再生可能エネルギーの両面を知るジャベル氏だからこそ、脱炭素に至る、多様で、現実的な道筋を描けると期待したい。

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