衣料品、バーゲンセールがなくなる日

コストを下げるために大量に生産し、正価で販売できなかったものはバーゲンで値下げして販売する。それでも売れなかったものは廃棄する。これまでに見られたこのような売り方を、これ以上続けていくことはできないでしょう。ファッション産業の環境負荷を低減するためには、アパレル企業のビジネススタイルだけではなく、消費者の購買行動も変えていく必要があります。少しずつですが、変化が始まっています。

2024年1月15日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

「あれ? バーゲンセールやってない」。年初の風物詩ともいえる衣料品セール、今年は例年より少なかったのにお気づきだろうか。売り上げ拡大に「右へならえ」で続いてきたセールが消えつつある。利益を改善したい売り手の思惑に加え、「安いから買う」人が減り、Z世代を中心としたサステイナビリティ(持続可能性)への意識の高まりも後押しする。“

1月2日の松屋銀座(東京・中央)。例年はセールが始まり多くの客でごった返すが、この日はシャッターがおり、24年ぶりの休業日だった。販売員らの労働環境改善が目的だが、同日の売り上げ減はセールではなく、正価(プロパー)販売の強化で補うという。思い切った決断ができたのは、売り上げに占めるセールの割合が減っているためだ。新型コロナウイルス禍前は1月前半は4割だったが、今年は2割を切っている。年間では2019年の8.9%が、2023年は4.4%に。期間も「1月中はセール一色だったが、今は大々的に打ち出すのは1週間程度」と大高寿美代副店長は話す。高島屋も同様。2日の日本橋店(東京・中央)では、婦人服のコートが集められ、プロパー販売されていた。取引先とともにセールをしない商品を作ったという。

消費者のセールへの関心は低下した

“アパレルのデジタル化支援のシタテル(熊本市)が2023年にアパレル経営者らに実施した調査によると、7割以上が「コロナ禍前と比べセールの売り上げが減っている」と答えた。「セールの商品量が減っている」も約6割に上る。三陽商会は、展開アイテムを絞ってより作り込むとともに、販売のタイミングを注視し、セールに頼らない方針にかじを切った。従来は「他社に負けないよう、全方位で作っていた」(同社)が、2022年以降は商品数をコロナ禍前に比べ半減。さらに、シーズン初めには計画の約80%の生産にとどめ、残りは状況をみて投入する。例えば、暑さが続いた昨夏は、ビジネス向けT シャツを追加発注しプロパー販売につなげた。「何でもあるより欲しいものがある」状況を生み、2023年2月期は7期ぶりに営業黒字化した。”

“一方、消費者のセールへの関心は「低下」が5割(シタテル調べ)。約10年前、一部百貨店などがセール縮小を試みるも、ファストファッションが台頭し流行を追う消費者に引きずられ定着しなかった。ここにきて動き出したのは消費者の意識変化が大きい。コロナ禍で在宅が増えたり断捨離をしたりして「セールだから買うという感覚は薄れ、本当に必要なものを必要なときに買う」と高島屋MD本部の嶋廻由希子部長は話す。物価上昇が続けば傾向はさらに強まる。「ファッション産業は世界で第2位の汚染産業」(国連貿易開発会議)との指摘が広がるなど、サステイナビリティへの意識も高まる。博報堂の調査で「買い物の際に環境や社会に与える影響を意識しているか」を生活者に10点満点で聞いたところ、2023年は4.98点。2019年から上昇し続けている。”

日本繊維輸入組合によると、2022年の国内の衣料品の供給量は約37億点。「需要を推計すると12億~13億点に過ぎない」とA.T.カーニーの福田稔シニアパートナーは指摘する。供給の半分以下だ。大量生産して売れ残り、値下げするも後に廃棄する姿が透ける。サザビーリーグ(東京・渋谷)のセレクトショップ「ロンハーマン」は2022年、全国13の全店でセールをやめた。適正量を仕入れて売り切り、廃棄ゼロを目指すなかでの決断だ。「このお店なら、自分が使ったお金が良い未来を作っていくことにつながる。そう思ってもらえたら」とロンハーマン事業本部の根岸由香里本部長は話す。最近はボイコット(不買運動)に対して勾配で社会課題に貢献する「バイコット」も叫ばれる。衣料品の中古市場が拡大するのも「サステイナブルな消費行動と認知され始めた(福田氏)ことが理由の一つだ。

“新たな価格に挑戦する動きも。2021年スタートのシンクスデザイン(東京・港)が展開する「シンクアース」は、オーガニックコットンや和紙を素材に使い、どの商品も土に還る。同じ商品に「通常購入」「循環購入」があり、後者の価格は前者の3分の2。期限は無いが、利用後返却が条件だ。同社は染め直し古着として販売し、ゆくゆくは管理する畑で土に還す。澤柳直志CEOは「服を通して循環を考えるきっかけになれば」という。服が新たな価値をまといつつある。”

“購入したものが数日後にセールになっていてがっかりしたり、もうすぐセールだからと買うのを控えたり、そんな経験は誰しもあるだろう。時期がくれば一斉に値下げし「洋服の『賞味期限』を一律に決めてしまっていた」。ロンハーマンの根岸氏はこう反省する。セールにするのかしないのか、それともアウトレットで再提案するのか。「商品の価値を一つ一つ丁寧に見極めていきたい」という。今後のセールについて、A.T.カーニーの福田氏は「ブランドごとに差が出る」とみる。「正価での売り切りを目指すブランドが増え、セールに頼るブランドは厳しくなる。時期もばらつき一斉に盛り上がる機運は下がる」。

“セールがすべて「悪」というわけではない。需要をはるかに上回る生産と、それに伴う廃棄に問題がある。欧州連合(EU)は昨年12月、企業に売れ残った衣料品の廃棄を禁止する規制を導入することで大筋合意した。廃棄削減の取り組みも進む。FINE(名古屋市)は売れ残った衣料品をブランドから買い取り、元の価格より安く再販。在庫管理支援のフルカイテン(大阪市)は適正な在庫量や利益最大化のため、人工知能(AI)を活用し商品ごとに正価で販売すべきか値引きすべきかをはじき出す。ボストン・コンサルティング・グループの調査(2023年7月)によると、環境負荷の低い買い物への意識は10代が最も高い。どんな姿勢で洋服を作り、売るのか。消費者の目はさらに厳しくなる。

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