号外:ゲノム編集の鮮魚が食卓へ

異なる生物の遺伝子を入れて品種改良する「遺伝子組み換え」に対して、その種の遺伝子の一部を改変して同一種の性質に変化を与えることを「ゲノム編集」といいます。「人為的に進化を促す」とか、「時間をかけて(世代を重ねて)実現する品種改良の期間を短縮する」と考えると分かり易いかもしれません。「遺伝子組み換え」と比較すれば「ゲノム編集」は安全性が高い(後続する世代で予想していない、危険な変化が現れる可能性がない)と言われていますが、門外漢の私には何とも言えません。ただ、ゲノム編集した食料品(鮮魚のような・・・)ということになると、ちょっと不安に感じてしまいます。ゲノム編集を活用したビジネスを進めていく場合には、市場や消費者に対して丁寧に説明し、不安を取り除くことが必要になると思います。

2023年11月12日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

ゲノム編集で生まれた魚が日常的に食卓に上がる日が間近に迫っている。スタートアップのリージョナルフィッシュ(京都市)はNTTと陸上養殖に乗り出す。ゲノム編集で生育の早いマダイや疾病に強いヒラメを生み出せる。将来は様々な品種を量産したい考えだ。最先端のテクノロジーはあるものの養殖施設をつくる資本力が乏しいスタートアップと、地方創生に取り組む大企業が連携して、新たな食産業の創出に踏み出した。”

品種改良の期間を短縮

「ゲノム編集によって新しい品種を生み出すことで、品種改良のなかった水産業に革命を起こしたい」。リージョナルフィッシュの梅川忠典社長は語る。京都大学発スタートアップである同社の核となる技術が、遺伝子の狙った場所をピンポイントで改変するゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」だ。共同創業者で最高技術責任者(CTO)の木下政人・京大准教授が長年研究してきた。”

異なる生物の遺伝子を入れて品種改良する「遺伝子組み換え」に対して、ゲノム編集はより自然界の進化に近いのが特徴だ。従来は突然変異で生じた個体を交配し、品種改良には30年近くかかる場合もあった。ゲノム編集で狙った変異を起こせば、2年で新品種が作れると見込む。リージョナルフィッシュが既に商品化しているマダイでは、ゲノム編集で筋肉の成長を抑える遺伝子「ミオスタチン」の働きを止める。その結果、可食部が1.2倍になった。木下准教授と、同社の科学技術顧問も務める近畿大学の家戸敬太郎教授が共同研究した成果だ。”

“ゲノム編集で生まれた品種を量販店に並べられるボリュームまでどう増やすのか。リージョナルフィッシュはまず、「種苗」と呼ばれる生まれたばかりの稚魚を量産する。2024年にも種苗の生産拠点を1ヶ所設ける考えだ。梅川社長は「全国で3ヶ所ほど種苗生産拠点をつくる必要がある」と指摘する。地域で水温が異なるため、寒冷な地域や温暖な地域、その中間地点に拠点を設けることであらゆる品種をカバーする。種苗は卵を孵化(ふか)し、10センチ程度の稚魚まで育てる。養殖業者はこの稚魚を購入し、成魚まで育てて出荷する。それらを加工すれば、量販店の棚に並べられる。”

リージョナルフィッシュが自社単独で手掛けるのは主に種苗の生産までだ。種苗の販売先となる養殖業者が必要となる。そこでリージョナルフィッシュが手を組んだのが、NTTだった。ゲノム編集魚の養殖施設として想定するのは、地上にタンクなどを設ける陸上養殖施設だ。梅川社長は「陸上養殖は装置産業になる。そうすると資本力がある会社がメインプレーヤーになる」と話す。リージョナルフィッシュは2022年に約20億円を調達したが、資金力では大企業に劣る。”

リスクの大きな種苗生産を担う代わりに、リスクが小さく安定的に運用できる養殖施設は大企業の手を借りることにした。「スタートアップが担うべき領域と、大企業が担うべき領域をしっかり切り分けしている」(梅川社長)。リージョナルフィッシュとNTTは7月に共同出資会社NTTグリーン&フードを設立した。陸上養殖施設の運営に向けて着々と準備を進める。NTTのITを活用することで、例えば水槽を泳ぐ魚の体長や体高を推定したり、異常遊泳している魚を検知したりすることが可能になる。NTTグリーン&フードは2025年ごろまでに全国3ヶ所で陸上養殖施設を運営したい考えだ。2035年度ごろには20ヶ所の開設を想定している。地方自治体や漁業組合とも連携しながら「地域のブランド、名産品を生み出していきたい」(梅川社長)と話す。”

「衰退していく地域を革新的な技術で再興したい」。NTT出身で、NTTグリーン&フード社長の久住嘉和氏は意気込む。NTTはこれまで農業の省人化などに取り組んできたが、農産物や海産物の生産量を直接増加させる技術は「ミッシングピースだった」(久住氏)。「地域に根差す会社として、非通信を強化する必要がある」(同)との考えからリージョナルフィッシュとの協業を決めた。リージョナルフィッシュはNTTに加えて、電力会社などインフラ系の企業など複数社とも連携したい考えだ。資本力が相対的に低いスタートアップならではの戦い方で、日本の水産業を革新できるか。ここからが本番だ。”

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