号外:北海道の風力発電、自前で送電線
太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電では、発電に適した場所と実際に電力を消費する場所(主として都市部)が遠く離れていることが多々あります。したがって発電した電力を需要地へ届けるための送電網や、発電と消費のピークを調整する蓄電設備が必要になります。これらの送配電システムが不十分だと、せっかく発電可能な電力の「出力制御」が求められ、電力を無駄なく使うことができなくなります。このような事態が実は頻発しています。再生可能エネルギー発電所の建設と同時に、送配電システムの設置・強化を進める必要があります。
2023年11月20日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“洋上風力発電を筆頭に再生可能エネルギー開発の最適地とされる北海道。ただ送電網は脆弱でポテンシャルを十分に生かせずにいる。「宝の持ち腐れ」にはさせまいと再生可能エネルギー事業者が自ら送電網の整備に動いた。「ようやく風力発電専用の送電線ができた」。風力発電国内大手、ユーラスエナジーホールディングス(HD、東京・港)の加藤潤稚内支店長は強調する。北海道稚内市と中川町などを結ぶ全長78キロメートルの送電線が2023年春、完成した。”
“ユーラスエナジーHDが中心となり、2023~25年にかけて道北で建設された陸上風力発電設備が相次ぎ稼働する。送電線はユーラスエナジーHDやコスモエコパワー(東京・品川)などが道北の9エリアで建設する127基の風車をつなぐ予定だ。すべて稼働すれば総出力は54万キロワットに上り、北海道の2021年度時点の風力発電導入量(約60万キロワット)に迫る規模となる。ただ北海道は、再生可能エネルギー由来電力を需要地まで運ぶ送電網の整備が遅れている。送電線の空き容量に余裕があるのは、人口が集中する札幌を中心とする道央エリアの一部だけだ。地方は人口密度が低く、電力需要に乏しいため、電力の「輸送力」を高める必要性はこれまで薄かった。”
“再生可能エネルギーの時代を迎えて状況は大きく変わった。陸上で整備が進む太陽光や風力、さらには洋上風力の適地は地方に点在している。道内各地をつなぐ北海道電力ネットワーク(札幌市)の送電線に余力は乏しく、再生可能エネルギー事業者の電力供給は送電線の空き容量を使う「ノンファーム型」が主流になる。この場合、送電網の空き容量不足によって再生可能エネルギー事業者の発電を止める「出力制御」を求められることがある。そこで動いたのがユーラスエナジーHDなどが出資する北海道北部風力送電(北海道稚内市)だ。78キロメートルに及ぶ送電線を同社が建設した。送電線はこれまで北電ネットワークのような大手電力傘下の送配電会社が建設してきた。それだけに風力発電事業者による再生可能エネルギー専用の送電網は異例だ。”
“総工費は1050億円。国から4割の補助を受けた。再生可能エネルギー事業者が発電出力に応じて、送電線などの設備使用料を支払う。北海道北部風力送電の吉村知己社長は「稼働後に20年あれば、維持費を含めて送電線の建設に投じた費用を回収できる」と語る。送電線は北電ネットワークの西中川変電所と接続し、さらに各所へと届けられる。出力制御の影響を最小化するため、道北の豊富町には蓄電設備を設けた。蓄電池の出力は24万キロワット、容量が72万キロワット時と世界最大級で電気自動車(EV)に換算すると約1万台分を貯蔵できる。電力需給に応じて蓄電池から電気を出し入れすることができ、再生可能エネルギーを最大限活用できる。”
“「稚内市周辺の道北は大型風車の輸送が容易な、なだらかな地形の土地が広大にある。陸上風力を手掛けるのにこれ以上の場所はない」。ユーラスエナジーHDの加藤潤稚内支店長はそう指摘する。稚内市やユーラスエナジーHD、コスモエコパワーなど9者は再生可能エネルギーの新事業や人材育成に関する連携協定を結んだ。風力発電の部品が運ばれる稚内港(北海道稚内市)では港湾法に基づく「海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾」の指定を目指している。かつて5万人を超えた稚内市の人口は3万人近くまで減り、電力需要は薄れる一方だ。だが再生可能エネルギー事業者を送電網の檻(おり)から解き放つことができれば、最北端の街に新産業が芽吹くことになる。”