生誕40年のユニクロはどこへ

今では日本を代表する、また世界有数のアパレル企業となったファーストリテイリングの「ユニクロ」が生誕40年を迎えます。日本で、ユニクロの服を一着も持っていないという人は、あまりいないのではないかと思えるぐらい、私たちの日常に定着しています。我が家にも数多くのユニクロの服があり、シーズンに応じて着心地をアップしてくれる機能性をとても重宝しています。ユニクロのHPには「LifeWear = あらゆる人の生活を、より豊かにするための服。美意識ある合理性をもち、シンプルで上質、そして細部への工夫に満ちている。生活ニーズから考え抜かれ、進化し続ける普段着です。」とあります。従来の「着飾ることで他の人と差異化するファッション」とは、少し異なる「服」に対する考え方のように思えます。

2024年3月3日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

35歳だった柳井正さんがユニクロ1号店をつくってから、今年で40年になる。広島市内の裏通りにあった小さなカジュアル衣料店が、いまのような姿に化けると想像した人がいただろうか。親会社ファーストリテイリングは今年8月期で売上高が3兆円を突破する見通しで、現在時価総額は13兆円超。「ZARA」を展開するスペインのインディテックスなどと競い合う、世界有数のアパレル企業になった。”

「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。ファーストリテイリングの企業理念を示すステートメントだ。およそファッション業界とは思えぬ武骨さ。大言壮語と言われても、社長の柳井さんは大真面目に追及してきた。人間が生きていくための基本である衣食住。その一角を占める洋服は生活文化の大きな要素である。ユニクロは洋服文化を、どう変えたのか。”

“「僕はかつて『服もコンビニの弁当も同じだ』と言った。少し言い過ぎだけど、本質を突いている今でも思う」。今回取材に応じた柳井さんはこう語った。欧米への憧れもあってか日本ではブランドやファッション性、目新しさばかりが強調され、消費者は服の価値よりずっと高いお金を払ってきた、これが持論である。服も弁当も同じ商品なのだから、品質や味に見合った合理的な価格で買われるべきだという。「日本も世界標準に近くなったのだろう」。DCブランドブームで若者がこぞって流行を追い求めた1980年代。そしてバブルが崩壊し、衣料品の単価は2010年代にかけて4割ほど下落したとされる。その間、ユニクロは中国の委託工場を軸に生産ネットワークを築き、フリースなど「価格破壊」を起こした。百貨店で数万円ほどの中間価格の衣料が売れなくなって久しい。”

“価格だけではない。「部品としての服を自分で選んで着るようになってきた」。業界が考案した毎年の流行やスタイルに乗り遅れまいと、追い立てられる時代は去った。安定品質の定番品を、他のブランドと自由に組み合わせて自分の服装にするという普段着の豊かさ。いつしか「ユニバレ」という言葉も聞かれなくなった。スポーツ衣料以外で保温や伸縮性など、科学的に数値で測定できる機能性を売りにする服が広がったのもユニクロが先駆けだ。”

“海外戦略をみると、その本質がより鮮明になる。2006年にニューヨークのソーホー地区に開いた旗艦店の開業を筆者は現地で取材した。今ではおなじみの赤地に白で片仮名の「ユニクロ」ロゴは、この時できた。「あのロゴのおかげで我々は市場でポジションをとれた」。店舗のほか、街を走るタクシーの屋根広告などあちこちに四角いロゴを展開し日本初のブランドを印象づけた。”

“ロゴデザインやブランド戦略を引き受けたクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんに聞いてみた。「優れた工業製品の緻密さ、正確性、清潔感といったイメージをすごく意識した」。世界を席巻したトヨタ自動車やソニーといった日本製品が持つ信頼性。しかし希少価値を信奉するファッション界では、逆に工業製品や大量生産は否定的な要素だった。「どうしても、そこを打ち破り、ばさっと逆転したかった」と佐藤さん。パリのオートクチュールが長点であり、底辺がマスブランドという「階級」をなくす試みといえる。”

ファストファッションと言われるZARAや北欧のヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)は価格破壊こそ起こしたが、流行と希少性を求める従来の業界の文脈にある。では製造小売り(SPA)としてユニクロの先輩格だった米ギャップはどうか。ジーンズ販売を民主化することが創業の理念であり共通点も多いが、柳井さんはこう定義する。「彼らはアメリカのライフスタイル。我々は世界中で売れるものは何だろうかと考える」。「あらゆる人のための服」という宣言には、階級だけでなく国という概念さえなくす含意がある。ヒートテックの「暖かさ」など機能性を売りにしてきたのは、それが世界の誰でも分かる価値だからだ。最新の春夏商品では新素材でジーンズなどを軽くした。”

“自動車から食品までマスブランドの工業製品は、暮らしの水準を平等に押し上げる貢献があった。だが世界は様変わりし突然強い逆風が吹く。コンビニ弁当と同じく洋服も、どのようにつくられ売られているのか、つまり買い手のみならず働き手も豊かになれるかが厳しく問われる。コンビニで24時間営業が社会問題化し、アパレルでは縫製工場や原料生産における労働者の待遇や人権問題が焦点となっている。環境に直結する大量廃棄の課題もある。消費者サイドも古着などサステナブルな商品を選び始め、「豊かな服」の定義も変わる。対応を急ぐユニクロがどこまで脱皮できるか。マスブランドの浮沈を占う先行事例にもなる。”

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