号外:アマゾン森林保護へ官民事業、農地再生で技術支援
私の母方の叔父は、高校を卒業するとブラジルに移民しました。1950年代の話です。その縁で、私は大学を卒業する年(1983年)に親族代表というわけではありませんが、サンパウロに住む叔父を訪問しました。当時、ブラジルからの里帰りはたまにありましたが、日本の親族がブラジルを訪問することはめったになかったので、私は現地の日系人の方々に大歓迎していただきました。アマゾン川中流のマナウス市を訪れた時には、アマゾンの熱帯雨林ジャングルを目にして、「これはとんでもないところに来てしまった」と驚いたことを憶えています。日本とブラジルは、地球の反対側に位置していますが、歴史的にはとても関係の深い間柄です。
2024年1月18日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“ブラジル・アマゾンの熱帯雨林を保全するために、日本は荒廃した放牧地を農地に再生する官民プロジェクトに着手する。国際協力機構(JICA)が2024年から土壌改良や炭素吸収型農業への技術・資金協力でブラジル政府との協議に入る。森林破壊の8~9割は農地や放牧地開発が原因であり、気候変動対策と食料安全保障の両立をはかる。2023年1月に就任したブラジルのルラ大統領は今後10年間で日本の総面積を上回る40万平方キロメートルの劣化放牧地を農地に再生する国家戦略を掲げる。伐採・焼却された森林の約7割が家畜の放牧地に利用されるが、土壌の自然回復力が弱く、その後は荒廃地として放置されている例が多い。これらの劣化放牧地を再生することで農地面積を1.8倍に拡大し、新たな森林破壊を防ぐ狙いがある。”
“ブラジル政府は1200億ドル(約17兆円)の資金支援を世界銀行や米州開発銀行(IDB)、主要国に求めている。日本は技術協力を軸に独自の官民事業でこの要請に応える。生物由来資源(バイオマス)からつくるバイオ炭を土壌改良に使うほか、温暖化ガスの一酸化二窒素(N2O)を窒素に変える根粒菌を活用するなど、日本の農業技術を導入する。スタートアップを含めて民間企業の参画を幅広く募り、植林やバイオ燃料施設などへの資金協力も進め、持続可能な農業への転換を促す。”
“日本にとってブラジルは大豆とトウモロコシでそれぞれ米国に次ぐ主要な輸入元となる。JICA南米課長の赤嶺剣悟氏は「世界的に農産品需要が増大するなか、ブラジルの農地再生への協力は日本の食料安全保障にも役立つ」と指摘する。そもそもブラジルが農業大国になったのは日本の技術協力が大きい。1979年からのJICA事業で、内陸部の不毛なサバンナ地帯「セラード」の農地転換を進めたことで大豆やトウモロコシ、コメの生産が飛躍的に伸びた。現在、ブラジルは年間に約1億6000万トンの大豆を生産し、世界最大の生産国になっている”
“ブラジルの森林面積は約497万平方キロメートルにのぼり、世界全体の約12%を占める。とりわけアマゾンの熱帯雨林は「地球の肺」といわれるCO2の吸収源だが、農地や放牧地の開発、資源探索のための森林破壊、干ばつに伴う山火事に歯止めがかからない。2019~22年のボルソナロ前政権下では農地などの大規模な開発が容認され、年間1万平方キロメートルを超える森林消失が続いていた。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)のデータによると、2023年度(2022年8月~23年7月)にブラジル国内のアマゾンの森林消失面積は5年ぶりに1万平方キロメートルの大台を下回った。2030年までの違法な森林伐採の撲滅を公約するルラ政権が監視を強化したためだ。とはいえ、記録的な高温と干ばつなどの影響で山火事が頻発しており、森林の消失面積は2010年代前半をなお上回っている。”
“国連食糧農業機関(FAO)前林業局長の三次啓都氏は「世界的には人口増加が続き、農業のニーズは増大する。気候変動対策としての森林保全とどうバランスを取るかは大きな課題だ」と話す。そのうえで「自給率が低い日本は海外から食料を調達しており、輸入元の環境に負の影響を及ぼしていることを意識する必要がある」と指摘する。森林破壊のおおもとにサプライチェーン(供給網)を通じた主要国の輸入消費があるのは確かだ。世界自然保護基金(WWF)は国際貿易に関わる森林破壊の24%は中国、16%は欧州連合(EU)、5%は日本に責任があると分析している。”
“EUは2023年6月に森林破壊を招いた農産品の輸入を禁止する規制を導入した。東南アジアで生産されるパーム油などと並び、ブラジル産の大豆や牛肉もその対象となる。米議会でも2023年12月に同様の輸入制限法案が提出されており、世界的な流れになる可能性がある。グローバル企業は森林破壊リスクを強く意識し、世界に広がるサプライチェーンの見直しに動き始めている。ブラジル・アマゾンの森林保全は日本にとっても決して人ごとではない。”