号外:ステーキよりチキン

アメリカに住んでいた頃は、私もまだまだ若かったし子供たちも食べ盛りだったので、時々はステーキハウスへでかけたり、家でバーベキューをしたりしてステーキを食べるのが楽しみでした。しかし日本に帰国してからは、牛肉がとても高価であることもあり、ステーキ(厚みのある牛肉)を食べることはめったになく、牛肉といえばもっぱら焼肉ですね。我が家の食卓に登場する頻度でいえば、鶏肉と豚肉が圧倒しています。日本は、もともと牛肉をたくさん食べる食文化ではありませんが、近年は欧米でも牛肉の消費量が減少しているという話題です。

2024年2月18日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

日本や欧米で牛肉需要が縮んでいる。もともと健康に悪影響との懸念から消費量が減っていたところ、直近の価格高騰により消費者離れが加速した。対照的に伸びているのが鶏肉で、比較的安価で健康的なたんぱく質源として消費が拡大する。ステーキに代わる食卓の「主役」として、チキンの存在感が増しつつある。

“「値札ショックは現実です」。米国のある家庭雑誌は2023年10月、「牛肉の価格が上がり続けているのはなぜ?」と題した記事で指摘した。米農務省(USDA)の公表する牛肉の小売価格は1ポンド(約0.45キログラム)当たり8ドル(約1200円)程度で、鶏肉価格の3倍超だ。米料理雑誌は「牛肉の節約方法」の記事を掲載。「ハンバーガーのパテなどのひき肉を使ったレシピは調理済みの豆を半々に混ぜることで、かさを増せます」と高値に悩む消費者に提案する。”

食肉大手の米タイソン・フーズが2月に発表した2023年10~12月期の決算では、牛肉事業で販売価格が前年同期比11%上昇した。「インフレ圧力は緩んでいるが、消費者は高値に直面している」(タイソンのドニー・キングCEO)。同事業の販売量は4%減っており、消費者離れは鮮明だ。米国でも直近ではインフレが落ち着きを見せるなか、牛肉の価格が上がり続ける理由は供給問題にある。USDAが1月発表した米肉牛飼育頭数は2822万頭で、1961年以来63年ぶりの低水準を記録した。”  

米国では過去3年にわたり、南部テキサス州を含む肉牛の産地が深刻な干ばつに見舞われた。牧草地は干上がり、牛の食料となる飼料や干し草の価格が高騰した。飼料費を担いきれない畜産農家が飼育頭数を絞り込み、価格が高くても利幅が取れない悪循環に陥っている。農業経済学が専門の米テキサスA&M大学デービッド・アンダーソン教授は「干ばつが改善しても、飼育頭数の水準引き上げには3~4年かかる」と指摘する。供給が足りない問題を早期に解消するのは難しく、価格は当面高止まりが続く見通しだ。USDAによると、2023年の米国の牛肉の年間消費量は1人当たり約58ポンドで、前年比約2%減だった。2024年にも同3%程度の減少を予想する。一方でブロイラー(肉用鶏)の消費量は増加を続け、2024年には年間消費量が99.6ポンドに達する見通し。米消費者は今年、牛肉の1.7倍の鶏肉を食べる計算だ。

牛肉離れは日本や欧州にも広がっている。欧州委員会は2023年10月に発表した報告書で、同年の欧州連合(EU)加盟国の牛肉消費量の見通しを前年比3%減と予想した。「インフレで消費者がより安価な食肉に切り替えている」と分析する。肉料理が多いドイツでも肉の消費量が減り続けている。独政府の調査によると、1人当たりの食肉消費量は2022年時点で52キログラムと統計で遡れる1989年以降で最低になった。米国と同様に牛肉の消費が落ち込み、代わりに鶏肉が増える傾向がある。独調査機関フォルサによると「ソーセージや肉を毎日食べる」という回答の割合は20%と、2015年から14ポイント下がった。”

日本の牛肉消費も振るわない。農林水産省が1月に発表した月次の食品価格動向調査では、輸入牛肉の全国平均価格が前年同期比2%上がった。2023年11月の総務省の家計調査で1人当たりの牛肉への月間消費額は7ヶ月連続で前年を下回っており、価格上昇が購買意欲を下押ししている。

米国でハンバーガーやステーキなど牛肉料理が広まったのは19世紀の後半だ。1人当たりの牛肉年間消費量は1970年代にピークに達したが、その後は縮小に転じた。コレステロールや心臓病など健康に悪影響があるとの懸念が一因となっている。西部カリフォルニア州在住で自営業のサーシャ・ハリスクロニンさん(48)は2023年12月、それまでは定期的に食べていた牛肉をやめた。血中コレステロールの数値が高く、「医師からストップがかかった」ためだ。米ブルームバーグ通信の2023年3月の食生活についての米消費者調査では、回答者の7割以上が牛肉の「味が好き」と答えたが「鶏肉より牛肉をより頻繁に食べる」と答えた人は16%にとどまった。特にベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)では鶏肉を頻繁に食べる割合が高く、高齢者が牛肉消費を抑えている様子がうかがえる。”

環境負荷への懸念も牛肉業界に逆風となりつつある。国連環境計画(UNEP)は2023年12月に公表した気候変動と食料に関する報告書で、食料関係が人為的な温暖化ガス排出量の3割を占めると指摘した。家畜や飼料を含む畜産業は、食料関連の排出の多くを占める。中でも牛は飼育に大量のエサや水を必要とし、ゲップやおならに温暖化ガスのメタンが多く含まれるため排出量が多い。UNEPは報告書で、食料関連の温暖化ガス削減に向けて、植物性由来食品の活用や、培養などによる代替肉への切り替えを進めるよう提言した。

牛肉生産の環境負荷への認識は、一部で消費量の下押し要因になりつつある。ドイツでは、若年層を中心に環境保護の観点から菜食主義に転向したり、代替肉に食生活を切り替えたりする動きが広がる。独調査機関フォルサのアンケートで「肉の代替製品を毎日食べる」との回答は10~20代の年齢層で18%に達した。レストランでは菜食や代替肉を使ったメニューも浸透し始め、小麦由来の「ビーガンソーセージ」などの流通も広がる。”

畜産が主要産業のニュージーランドは、牛のゲップなど農業の温暖化ガスの排出に課税する方針を打ち出した。同国では畜産産業からの温暖化ガス排出量が、国全体の排出量の5割を占め、国として排出量削減対策は避けて通れない問題となっている。各国で今後、規制強化が進む可能性もある。”

<鶏肉>米国の食卓に鶏肉が定着している。毎年2月のアメリカン・フットボール王者決定戦スーパーボールは、鶏の手羽先を揚げてソースをかけた「チキンウイング」を食べるイベントとして定着した。試合前は食品スーパーやテイクアウト店は販促合戦をする。米鶏肉協会は試合日の手羽先消費量を14億5千万本と予測する。南部ジョージア州アトランタに本社をおくチキン専業チェーンのチックフィレイは、フライドチキンや網焼きの鶏肉を使った商品が人気。出店数は過去5年で倍増し、全米で3000店に達した。米マクドナルドは2021年に投入したフライドチキンのサンドイッチ「マッククリスピー」がブランド価値10億ドルに成長、ハンバーガーに並ぶ看板商品になりつつある。

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