繊維の再生を容易に、綿とポリエステルを分離

新しい技術で綿/ポリエステル混紡繊維の綿とポリエステルを高純度で分離して回収するという話題です。記事の内容を見る限りでは、既存の設備での対応は難しく、専用設備を立ち上げる必要がありそうです。服に使用されている縫い糸や付属資材の分別にどの程度の精度が求められるのか、染料や薬剤他の不純物の扱いといった点も課題になるかもしれません。一般的に綿やポリエステルといっても、その内容は産地やメーカーによって決して一様ではないので、回収した素材の再利用(出口戦略)も考えなければならないでしょう。しかし、これらの課題をひとつひとつ克服していかなければ「繊維 to 繊維」のリサイクルは実現しません。繊維業界、消費者、行政を含めて、関係者全員で知恵を絞っていかねばならないと思います。

2024年7月9日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“大阪大学の宇山浩教授は、電子レンジの原理であるマイクロ波で綿とポリエステルが混ざった繊維を分離して再生する技術を開発した。2種類以上の繊維を混ぜた混紡繊維はリサイクルが難しい。技術を確立できれば、国際的な課題となっている服の廃棄を減らし、脱炭素や環境保全に役立つ。”

“2種類以上の繊維を混ぜて糸をつむぐことを混紡という。生地の丈夫さや質感を向上させたり、天然繊維に化学繊維を混ぜ込むことでコストを下げたりするために活用される。化学繊維では耐久性が高く乾きやすいポリエステルがよく使われ、綿とポリエステルの混紡生地からなる服は衣料品全体の約半分を占めるという。ただ混紡繊維は、絡み合った繊維同士を分離するのが難しい。リサイクルされる例は限られており、これまでは埋め立てや焼却などで処分されることが多かったという。ポリエステル製のフリースなど一部の服ではリサイクル素材の利用が進むが、材料は大量に確保しやすいペットボトルから作った繊維を使うのが一般的だ。服からダウンやフェザーを取り出す取り組みもあるが、いずれも単一の材料を使うことが多い。”

混紡繊維でできた衣類(右)から9割以上の効率で綿を取り出せる

“宇山教授の開発した手法は、ポリエステルと綿を完全に分離できる。手順は混紡繊維とアルコールの一種であるエチレングリコール、触媒を混ぜてマイクロ波で数分加熱するだけだ。ポリエステルだけがエチレングリコール中に溶け出す。残った綿は回収してそのまま再利用できる。溶液を結晶化すればポリエステルの原料も取り出せる。綿の回収率は90%以上で、ポリエステルも7割程度回収できるという。宇山教授は「衣料品の半分近くを占める綿とポリエステルの混紡繊維をリサイクルできるため、実用性は大きい」と自信を見せる。国内特許を申請中で、複数の商社と実用化に向けた実証を進めている。今後はほかの混紡繊維にも応用を広げる。”

“多くのスタートアップも同様の技術を開発している。スウェーデンの衣料品大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)などが出資する英ウォーンアゲインテクノロジーズは、特殊な化学溶剤を使い、ポリエステルと綿の混紡繊維から綿を分離して取り除き、主成分のセルロースなどとして取り出す。2024年に年間1000トンの処理能力を持つデモプラントを立ち上げ、2027年には同5万トンの商業プラントを稼働させる計画だ。丸紅が出資する米サークは細かく粉砕した古着を高温・高圧の水に入れて溶かすことでポリエステル原料とセルロースをそれぞれ取り出す。数年以内に年間約6万5000トンの処理能力を持つ商業プラントを稼働させる予定としている。”

廃棄される服は、ファストファッションの隆盛などにより増え続けている。国際的な非営利団体グローバル・ファッション・アジェンダの推計によると、繊維製品の廃棄量は2015年の9200万トンから2030年には1億4800万トンと6割増える見通しだ。衣服や原材料の生産に伴うCO2排出は2030年に6割、水の消費量は5割増える。混紡繊維のリサイクル技術は、こうした環境問題を解決に導くと期待されている。”

実用化に向けて解決すべき課題はコストだ。ある素材をリサイクルするにはそれを回収し、選別して運搬するコストが発生する。リサイクルを行うプラントの建設費も必要だ。衣類の場合、焼却処理するのには現状で1トンあたり数万円で済むとされ、リサイクルを進めるためには費用をこれ以下にする必要がある。逆に言えばコストが安かったため、衣料品メーカーは焼却や埋め立てによって衣服を処分してきたといえる。ただ追い風は吹いている。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の浸透により、資源を大量廃棄する従来の生産体制には厳しい目が向けられているうえ、世界的なインフレにより、価格が高騰する資源を再利用することにも注目が集まる。リサイクル技術を発達させれば、環境保全と経済的メリットの両方を追求できる。

“政府も服の再生を後押しする。経済産業省は廃棄した服から新たな繊維を作る際の規格を設ける。ポリエステルなどの化学繊維と天然繊維の綿や羊毛についてリサイクル繊維の定義を示す。繊維の質量に対するリサイクル材料の割合や表示方法を決める。2026年度にも日本産業規格(JIS)を策定し、2027年に国際標準化機構(ISO)への提案を目指す。2030年度に5万トンの繊維を再利用する目標だ。欧州では服の廃棄を規制する動きも出てきている。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は2030年までにEU域内で販売される繊維製品をリサイクルが可能で、再利用した繊維を多く使うものにする目標を2022年に掲げた。2023年にはフランス政府が服や靴の修理費用を支援する制度を発表するなど、服の廃棄を減らす取り組みが進む。各国政府の支援や投資家が環境に配慮した企業を選ぶESG投資の流れを受けて繊維のリサイクル市場は拡大する見通しだ。調査会社のフォーチュン・ビジネス・インサイトによると、世界市場は2032年までに2023年比で47%増の84億9000万ドル(約1兆4000億円)になる。日本初の技術の普及を促す必要がある。”

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