号外:超臨界地熱発電

日本列島は環太平洋造山帯の上に位置し、火山や温泉が多く、地熱資源に恵まれています。しかし思ったほど地熱発電の開発が進んでいません。資源が山間部に多く、開発に時間とコストがかかることや、適地が国立公園の中にあったり、周辺の温泉などの観光事業者との調整が難しかったりと、制約条件が多いからです。しかしこれだけ再生可能エネルギーの活用が求められているのですから、せっかくの資源を眠らせておくのはもったいない話です。新しい技術で日本の地熱資源を効率的に活用しようという取り組みが進んでいます。

2024年7月10日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所(FREA、福島県郡山市)などは次世代の地熱発電技術として注目される「超臨界地熱発電」について、有望な候補地を岩手県雫石町とする研究成果をまとめた。地下にあるマグマの上部に、高温・高圧の「超臨界」と呼ばれる状態になった熱水があることがわかった。この熱水を取り出して発電すれば、従来の地熱発電に比べて最大5倍の発電出力を実現できる。2025年にも掘削を始め、2030年代の商用化を目指す。”

超臨界地熱発電は深さ3~6キロメートルのマグマ上部にある摂氏400~600度の熱水を取り出して発電する。深さ1.5~2キロメートルを掘る従来型地熱発電に比べて、熱水の温度は2倍、圧力は10倍高く、高温・高圧の超臨界状態になっている。超臨界の熱水で発電機を回せば従来型に比べて5倍に相当する10万キロワットの発電出力が得られる。火山地帯が豊富にある日本の潜在力は高い技術として期待されている。掘削する場所が従来の地熱発電より深いため、温泉などの影響が小さいという。”

“新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2021年度から岩手県の葛根田地域(雫石町)と安比地域、秋田県の湯沢地域、大分県の九重地域の計4ヶ所で実現性に向けた調査を進めてきた。このうち、産総研が担当する葛根田地域で電磁波などを使って地中を調べたところ、深さ3キロの位置に高温・高圧の熱水があることが分かった。同研究所再生可能エネルギー研究センターの浅沼宏・副研究センター長は「超臨界地熱貯留槽がある可能性が高い」と語る。調査には地熱調査の地熱エンジニアリング(岩手県滝沢市)や秋田大学、東北大学、東京工業大学、京都大学なども参加した。”

“超臨界層とみられる場所は国有林にあり、近くには東北電力の葛根田地熱発電所がある。産総研では早ければ2025年度にも掘削を始めて直接、超臨界層があるかどうか確認する。掘削した後、パイプなどを埋設して安定して超臨界の熱水を得られれば2030年代には地熱発電所として実用化する。発電コストは既存の地熱発電と同じ1キロワットあたり10円台前半を見込む。実現できれば世界初の超臨界地熱発電所になる。

超臨界発電を巡っては、次世代の再生可能エネルギーとして世界各国で実用化に向けた取り組みが進んでいる。浅沼氏によると、火山国のアイスランドでは超臨界層を狙った掘削も始まった。米国では2024年1月に米エネルギー省(DOE)がオレゴン州のニューベリー火山の調査に乗り出した。ニュージーランドも国内で12ヶ所を有望地点として選定して調査を進めており、2050年の導入目標を1.4ギガ(ギガは10億)~2ギガワットとしている。日本政府は超臨界地熱発電について脱炭素(カーボンゼロ)に向けたグリーン成長戦略で有望な技術の一つとして掲げている。

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