号外:革新を追い求める前にカイゼンを

今回ご紹介するのは、マネックスグループのグローバル・アンバサダーであるイエスパー・コール氏のコラムなのですが、とても的確な考察だと思います。何かと新しいものや考え方(革新)に気を取られがちですが、昔のものとはいいませんが、今あるサービスやモノ(現実に役に立っているもの)を改善・改良していくことが最も堅実で無駄が少なく、社会実装もスムーズに進むのではないかと思います。ないものねだりをするのではなく、今手にしているものを大切にし、未来へつなげていく努力も必要です。「革新や破壊という概念がすでにある解決策をないがしろにしたり、弱体化させたりする犠牲の上に成り立つものだとしたら、社会も経済も悪くなる。」という指摘は肝に銘じておきましょう。

2024年8月8日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“1986年に来日して以来、賢明で洞察力のある先生方に恵まれてきた。政策文書や論文を読むのに苦労していたとき、高坂正堯京都大学教授が素晴らしいアドバイスをくれた。「イエスパー君、著者がカタカナを多用していたら、その内容や提言はあまり参考にしなくていい」。”

米国人は想像力をかきたてる未来を示すコンセプト、アイディア、言葉を考え出すことにたけている。特に「イノベーション(革新)」と「ディスラプション(破壊)」は、多くの日本人が称賛するコンセプトである。では、世界から称賛される日本のコンセプトは何だろうか。私に言わせれば、それは日本文化を背景にした「カイゼン」である。”

“何年か前、私はとあるスーパースターとパネル討論に参加したことがある。彼は公共交通の問題を解決する自動運転車の利点について熱っぽく語っていた。私は、東京と大阪にはすでにチカテツと呼ばれる完璧に機能する自動運転車があると述べた。彼は激怒し、私のことを何も知らないと言って非難した。お察しのことと思うが、その人物、イーロン・マスク氏は偉大なエンジニアなのだと思う。そして私は一介の経済学者である。ただし、経済学者にとって地下鉄と自動運転車の違いは、後者は何人かを大金持ちにできるということにすぎない。

“誤解しないでほしいが、私は社会主義者ではない。地方、それも高齢化社会にあって自動運転車は生活の質を向上させる重要な役割を果たすことができる。しかし革新や破壊という概念がすでにある解決策をないがしろにしたり、弱体化させたりする犠牲の上に成り立つものだとしたら、社会も経済も悪くなる。

米国の公共インフラが驚くほど非効率で貧弱な理由は、米国がよりよい現在のために懸命に努力するよりも、よりよい未来を夢見ることを好むからである。そして、自動運転車の新興企業に投下される資本に対するリターンは、既存のインフラを維持し、少しずつアップグレードしていく苦労から得られるリターンよりも常に大きいのだと思う。一方、日本では優秀な公共サービスや利便性は未来の約束事ではなく、日々の現実である。経済的には効率が悪いかもしれないが、日本はよりバランスのとれた、便利で住みやすい国になっている。特に高齢化社会にとってこれは非常に重要なことだ。”

“私の考えでは、日本の将来の繁栄は、企業のリーダーが「カイゼン」に執拗に焦点を当てるかどうかにかかっている。例えば、日本が独自に人口知能(AI)を発明しなかったという点を強調するより、AIの力を日々のワークフローやプロセスに導入し、業務に統合することの方がはるかに重要である。”

それは「カイゼン」であって、「イノベーション」ではない。日本の「カイゼン」には一人ひとりの従業員の「好奇心」と「謙虚さ」が組み合わされている。そのトリプルKのスーパーパワーに焦点を当てれば、未来は明るいと考えている。”

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