大手商社の環境配慮型繊維素材開発

欧米ブランドを中心とするサステイナブルの潮流を受けて(日本ブランドは・・・?)、衣料品のOEM(相手先ブランドによる生産)を担う商社が、環境配慮型素材の開発、調達を進めています。

2019年8月16日の日本経済新聞に掲載された記事です。

“丸紅は、古着を繊維原料に戻す技術を開発した米国のスタートアップ企業、タイトン・バイオサイエンス(バージニア州)に約10億円を出資した。タイトン社は綿とポリエステルが混ざった衣類を分解して、セルロース繊維原料やポリエステル原料のテレフタル酸に再生する技術を持つ。丸紅はこの再生原料を2020年から使う方針。”

丸紅+Tyton

丸紅のプレスリリースより。

タイトン社は、綿・ポリエステル製品をポリエステル原料とセルロース繊維原料に再生する技術を開発しました。この技術は、化学薬品の使用を極力抑えた加水分解の手法を用いることで環境負荷を低減させるとともに、繊維再生効率も高いことから、廃棄物削減、サーキュラーエコノミーに寄与する画期的なものです。丸紅グループは、再生された原料を、糸、生地、衣料製品へと加工し、最終的には消費者へとお届けします。また、こうしたサプライチェーンの過程において、縫製工場で発生する端材や消費者が着用した古着等を回収し、再びタイトン社にて原料に再生するという、サステイナブルなサーキュラーエコノミーを実現するビジネスモデルの構築に取り組みます。”

私は技術屋ではありませんが、上記ではどのような技術なのかよくわからないので、タイトン社のHPを見てみました。HPによると、この技術は亜臨海水を溶媒とし、使用後の綿や綿混素材を溶解パルプ(レーヨンの原料)に再生します。また同様に使用後のポリエステルや綿混素材からポリエステル粗原料(テレフタル酸とエチレングリコール)へ解重合することもできるとしています。溶解パルプもポリエステル粗原料も未使用品と同等の品質が得られるとのことです。また水を有機溶媒の代わりに使うので、クリーンな工程であり、コストも抑えられるとしています。

亜臨界水(リマテック株式会社HPより)

https://www.rematec.co.jp/rematec/work/sc/sc_01.html

:水は、温度と圧力を374℃、22MPa以上まで上げると、水(液体)でも水蒸気(気体)でもない状態となります。この点を水の臨界点といい、臨界点より上の領域を超臨界水と呼びます。臨界点よりもやや低い近傍の領域を亜臨海水と呼びます。亜臨海水の特徴は、有機物の溶解作用と強い加水分解作用があります。この臨海水の性質を利用することで、環境にやさしい廃棄物の再資源化が可能です。

実はまだよくわからないのですが、技術内容の詳細に関心がある方は、後は自力で調べてみてください。使用後の縫製品や生地(端材を含む)をリサイクルするのであれば、使用後衣料品の回収システムと、処理できない服飾資材などを除く素材分別が必要になります。粗原料に戻す技術のようですが、どの程度の不純物(染料、助剤や汚れ)が許容されるのか、あるいは工程中で除去・精製されるのか(再生粗原料の品質に悪影響を与えないのか)というところが気になります。合成繊維のケミカルリサイクルと似たようなプロセスだと思いますが、亜臨海水を使うことで、従来工法と比較して、どの程度環境負荷が低減されるのか、またどの程度コスト的に競争力があるのかがポイントになりそうです。

それから、再生品は粗原料ですから、その後に糸や生地に加工する工程が必要になります。「サステイナブルなサーキュラーエコノミー」を実現するためには、粗原料から製品(衣料品)、そして使用後の回収、分別まで全体のシステム構築が必要になります。またシステムを継続稼働するためには、ある程度の規模が必要になると思います。色々と課題は出てくるのだと思いますが、この画期的な技術を活かしたビジネスモデルを是非とも構築して欲しいと思います。

これ以外にも、伊藤忠商事がフィンランドのMetsa Group(メッツァ・グループ)傘下の大手針葉樹パルプメーカー(Metsa Fibre)とセルロースファイバーのパイロットプラントを設立することについて合意したというニュースがありました。総投資額は約50億円とのことです。このパイロットプラントはMetsa Fibreの工場内に併設し、パルプ製造からファイバー製造まで一貫生産体制を確立し、また独自に開発された新特殊溶剤(詳細は未開示)を使用することで環境負荷が低減されるとのことです。

衣料品の分野でも、市場=消費者あるいは社会からの環境配慮型素材やビジネスモデルに対する要求はますます強くなっています。繊維素材メーカーやアパレル企業だけでなく、衣料品の製造・流通で大きな役割を担う商社でも、この要求に応えるための具体的な動きが始まっています。

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