アメリカでの生分解性繊維素材の開発動向

環境に配慮した繊維素材として、アメリカでも生分解性を持った合成繊維素材の開発が進められています。そのうちの2つについてご紹介します。

①プリマロフト・インク(米)の「プリマロフト・バイオ」

プリマロフト・インクはアメリカの機能繊維素材メーカーです。「プリマロフト」は1980年代にアメリカ軍が使用する寝袋やジャケットの中綿素材として開発されました。従来は天然のダウン(羽毛)を使用していたのですが、雨天の野営では水がしみこみ、保温性が低下します。軍の依頼を受けて、保温性と柔軟性、撥水性を兼ね備えたプリマロフト(ポリエステル素材)が開発されました。以来、アメリカ軍関係のみならず、多くのアウトドア・アパレルで採用されてきました。

アメリカでは廃棄物はほとんどが埋め立てられます。ダウンは天然物ですから、埋め立て後に生分解されます。しかしプリマロフトのような合成断熱材(ポリエステル)を使用した製品の場合、ポリエステルは生分解しないので、半永久的に埋め立て地に蓄積されてゆきます。これはアウトドアを、サステイナブルであることを愛する人たちにとっては大きな懸念事項です。

「プリマロフト・バイオ」はプリマロフトと同じポリエステル素材(ただし100%ペットボトル再生素材を使用)ですが、生分解を引き起こす微生物を強く引き付ける添加剤(詳細は未公表)が含まれており、一般のポリエステル素材と比較すると生分解性に優れているということです。ASTM D 5511法(埋め立て環境を想定した嫌気性生分解加速試験)で、423日経過で84.1%が生分解し、ASTM D 6691法(海洋環境を想定した好気性生分解加速試験)では409日経過で55.1%が生分解したと報告されています。ただこれらはいずれも加速試験で、実際に400~500日で分解が進むということではなく、一般的なポリエステルであれば微細化しても、半永久的に生分解されませんが、「プリマロフト・バイオ」であれば、埋め立て地の土中や海洋環境において、数十年で生分解されるであろうということのようです。

もう一つの課題は、中綿だけが生分解性を持っていても、その周りの生地が合成繊維で生分解性がなければ、結果として中綿の生分解も進みにくいだろうということです。製品設計や更なる周辺素材の開発が求められています。

②Intrinsic Advanced Materials(米)の「Ciclo Textile」

こちらも生分解性ポリエステル繊維です。Ciclo技術は、加水分解促進物質(詳細未公開、パテント申請中)をポリエステル樹脂にマスターバッチとして合成し、その後に紡糸した繊維は湿気と微生物に晒されることで生分解するというものです。分解環境としては、排水処理施設のヘドロ、海中、嫌気性発酵している廃棄物埋め立て地となっています。生分解性能については、前述のASTM D 5511法で、3年半で91%の生分解としています。排水処理施設のヘドロでの嫌気性生分解環境下では55日で15%、またこれも前述のASTM D 6691法では、59日で9.3%、208日で35%の生分解と報告されています。ASTMの試験方法はいずれも加速試験なので、実際の生分解はそれぞれの環境下でゆっくりと進むものと思われます。Cicloのケースでは、家庭洗濯で脱落した繊維が、海洋マイクロプラスティックになっても、生分解されることで環境汚染が緩和されるということが言及されています。

紡糸前の特殊処理で生分解性を付与するということなので、糸の太さや、織り方、編み方などはかなり自由度が高そうです。Cicloとプリマロフト・ドライの組み合わせによる製品設計も可能性がありそうです。

これらの製品紹介を見ていると気になることがあります。アメリカの場合は廃棄物のほとんどが埋め立てられます。これらの製品は埋め立て後に、埋め立て地の環境条件にもよりますが、ある程度の時間で製品が生分解されることによって土中の廃棄物が減量されるとしています。また何らかの理由で海洋に流出しても、ある程度の時間で生分解されるので、マイクロプラスティックの海洋汚染、あるいは微細化したプラスティックが食物連鎖の中に取り込まれて蓄積されることを緩和するとしています。あくまでも通常廃棄されること(アメリカの場合は埋め立て)が前提になっていて、製品を回収して管理された条件で処理することは想定されていません。日本の場合は、廃棄物のほとんど(廃衣料を含む)は焼却処理されますので、別途区分回収して生分解処理を実施しなければ、生分解性能を利用して焼却廃棄物を減量することはできません。各国・各地域の廃棄物処理の実態に合わせて考えてゆく必要があります。

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