新品の服、もうええでしょう
若者が服を選ぶ選択肢の一つとして古着が定着しています。私たちの年代(60代)が古着という言葉に持つイメージと、現代の若者が持つ感覚は大きく違ってきているようです。古着を活用すること、そして楽しむことは、ファッション産業の環境負荷を少なくすることにつながります。やり方は色々あるでしょうが、気に入った服を長く大切に扱うことはとても素晴らしいことです。またそのような行動を広げていくための新しいビジネスも生まれてきています。
2024年12月22日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“ZARAやバーバリー、グッチ・・・。12月7日、東京都渋谷区にある雑居ビルの一室に約500着の古着がハンガーにつるされていた。服に値札は付いていない。入室した人は持参した3着の古着をスタッフに渡し、気に入った3着を持って帰った。「服を売らないアパレルブランド」を掲げるエナジークローゼットは開く服の物々交換イベントで、3300円の参加料を払った若者らが訪れた。「価格を気にせず、服を探す時間を純粋に楽しんでほしい」。個人事業種として2019年から物々交換イベントを約70回開いてきた三和沙友里さん(28)は語る。参加者の半数は20代の若者で、「不要になったお気に入りの服を誰かに受け取ってほしいという意識が強い」。当初は傷んだ服を持ち込まれることもあったが、最近は状態の良い服が多いという。定期的に参加し、この日はイベントを手伝っていた香取怜さん(24)は「物々交換は服を捨てずにすむので罪悪感がない」と語る。”
“「古着やレンタル市場の拡大は世界的な潮流だ。2050年ごろには、世界の古着市場が新品の半分程度になっていてもおかしくない」。アパレル産業に詳しいA.T.カーニーの福田稔氏は指摘する。日本の古着市場も急成長している。矢野経済研究所(東京・中野)によると、ファッションリユース(中古)市場は2026年に1兆4900億円と2024年比16%増える見通し。新品のアパレル市場は1991年をピークに縮小傾向にある。足元の2%の減少ペースが続くと2050年代には半分の4兆6000億円まで縮む見通しだ。一方で国内の古着市場が世界の潮流と同じように新品の半分まで拡大した場合、2050年代には現在の約2倍の規模に達する。”
“古着が選ばれる背景のひとつに、Z世代など若者の環境意識の高まりがある。博報堂が8月に公表した生活者調査では、10~20代の2人に1人が買い物の際に「新品を買わずに中古品を買う」ことを意識していた。自分で売る際のリセールバリュー(再販価格)を前提に新品の服を選ぶ人も増えている。フリマアプリ大手、メルカリの河野秀治執行役は「(再販価格を意識して)値札は外さずに服を着る人もいる」と語る。”
“世界のアパレル産業は大量生産・大量販売で成長してきた一方、不要になった服が廃棄されるなど環境を汚染しているとの指摘は根強い。「大量生産に頼ったブランドは淘汰される」(福田氏)。企業はビジネスモデルの変革を迫られている。ユニクロを展開するファーストリテイリングは11月に定款を変更し、事業目的に「古物営業」を加えた。回収した自社の服を染め直しや洗浄をして再販売する循環型リサイクルを目指す。H&Mなど海外大手も自社製品の再販に乗り出している。新品の服ではなく、あえて古着を選ぶ人が増えている2050年代。ファッションの流行は古着から生まれる可能性がある。一昔前のユニクロの古着が流行の服として購入されたり、パリコレで古着をまとったモデルがランウェイを歩いていたりするかもしれない。銀座といった一等地に古着の専門店が軒を連ねるなど、ファッション業界が大きく変わりそうだ。”
“古着のデザインを新しくするアップサイクル品も注目を集める。電通若者研究部の谷井愛理沙氏は「Z世代はブランドロゴよりも個性を表現できる服を求める傾向が強い」と指摘する。一点物で誰ともかぶらないアップサイクル品で若者の需要は高まる見通しだ。新品以外のファッションの楽しみ方は、古着にとどまらない。大丸松坂屋百貨店が2021年に始めた服のサブスクリプション(定額課金)「アナザードレス」は、会員数が21万人に達する。300のブランドから好みの服を借りられ、レンタル総数はのべ約35万着を超えた。1980年代後半のバブル期に流行した「ボディコン」デフレ経済の代名詞ともなったユニクロなど、服の流行は経済や社会を映してきた。古着から流行が生まれるかもしれない未来を見据えると、ファッション産業の新しいビジネスチャンスが広がる。”