大丸松坂屋、洋服のサブスクで循環消費

繊維・ファッション産業を持続可能な産業として再構築するために、環境負荷が低く「繊維 to 繊維」のリサイクルが可能な先端素材(例えばBioworks社のPlaX®)と、新しい循環型の消費サービスである「サブスクリプション」を組み合わせるという方法はいかがでしょうか。老舗百貨店である大丸松坂屋が展開する洋服のサブスクリプション・サービス「アナザードレス」を紹介した記事ですが、百貨店がこれまで培ってきたアパレルブランドそして顧客との信頼関係が、新しい形で実を結ぶ可能性が感じられます。箪笥在庫を減らして衣料品の廃棄を減らせるだけではなく、家の中の限られたスペースを有効活用することにもつながりそうです。

Bioworksが研究開発する植物由来の次世代合成繊維PlaX>の項を参照

2014年12月9日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

大丸松坂屋の衣料品サブスク「アナザードレス」

J・フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店が、自社ブランドを後ろ盾にした衣料品のサブスクリプション(定額課金)サービスを拡大する。クリーニング工場を買収し運営改善に乗り出した。商品を繰り返し使う循環型消費へのシフトをにらむ。大量に仕入れて販売するという、百貨店の旧ビジネスモデルから脱却する象徴事例になりそうだ。”

“11月中旬、横浜市にある医療サブスクサービス「アナザードレス」向けの物流倉庫を訪れると、保管エリアには数万着の服が所狭しと並べられ利用者への貸し出しを待っていた。返却後にクリーニングした商品は一つ一つつるされ、ささいなシミや汚れなども見逃さないよう担当者が目をこらして入念にチェックしている。”

横浜市の物流倉庫

大丸松坂屋はサービス拡大に向けて専用の物流体制を築いた。6月、オーナーが高齢化して後継者が未定だった取引先の企業から月3万着を処理できるクリーニング工場を買収した。その3ヶ月後に物流倉庫を同工場の近くに移管し、面積を従来比約2倍に広げた。これまで倉庫と工場の行き来にかかる所要時間は大きな課題だったが、拠点間移動の時短によるリードタイム削減や作業の内製化といったカイゼンをした。”

“衣料サブスクは、レンタルから返却まで一連の手続きがオンライン上で完結するサービスが主流だ。同じく月額制サービスを手掛ける「エアークローゼット」などネット専業企業なども勢力を広げる。矢野経済研究所(東京・中野)によると、サブスクサービスの国内市場は2024年に前年比4%増の9831億円となるもようだ。衣料品などは人気の商品で今後も成長が見込まれる。”

“大丸松坂屋のアナザードレスは、300を超える国内外のブランドから商品を自由に選んでレンタルできる。2021年3月に社内ベンチャー事業として始まった。一番人気の「スタンダードプラン」は月1万2430円で3着借りられる。気に入った商品はそのまま購入もでき、10月の買い取り率は6.3%。ブランド品の「お試し」としても使われている。高級ブランドの正規品を借りられることが大きな特徴で、対象には「マルニ」や「メゾン マルジェラ」といった海外ブランドも並ぶ。会員数は21万人(10月末時点、無料会員を含む)、レンタル総数はのべ約35万着に上った。”

仕入れも百貨店のブランド力を前面に出す。アパレルブランドの出身者ら、5人の専属仕入れ担当者(バイヤー)を抱え、毎週新作を投入する。有名ブランドに限らず、担当者の目利き力を生かして新興ブランドの発掘にも取り組む。社内公募で集まったメンバーや外部の人材もと登用し常に新しい風を入れている。サービス開始に当たってはブランドの経営陣と直接交渉する機会を設けてもらい商品調達につなげた。百貨店で培ったブランドとの信頼関係は大きな強みだ。

レンタル対象は服やバッグにとどまらない。2023年9月、若い世代を中心に人気が高まっている現代アートを追加した。これも百貨店の目利きが生きる。同年12月には黒染めで新しいデザインの一点物に生まれ変わらせた「アップサイクル品」の扱いも始めた。シミや汚れがついた服の再活用につなげる新たな試みだ。”

百貨店の既存ビジネスに対する危機感は強い。かつて衣料品は店頭で買うのが主流だったが、2004年にスタートトゥデイ(現ZOZO)が開設した通販サイト「ゾゾタウン」などが成長し、アパレル各社も自社EC(電子商取引)サイトを相次いで立ち上げた。大丸松坂屋はECをはじめデジタル分野で出遅れた。新型コロナウイルス禍が実店舗に頼らない新しいビジネス確率も迫った。ほぼ同時期に衣料品の大量廃棄が世界的な課題となり始めた。サブスクサービスは現状、収益化に至っていない。一連の施策をテコに、ECに続く第3の収益源として2027年2月期には営業黒字転換させることを当面の目標とする。百貨店にとってサブスクなど貸し出しサービスのハードルは高い。三越伊勢丹ホールディングスは2018年、三越銀座店(東京・中央)でドレスのレンタルサービス「CARITE(カリテ)」の実証実験を始めたが、2020年に事業を終了した。終了の理由について同店の担当者によると「新型コロナで人が集う場がなくなるなど生活様式が大きく変わる中で、ビジネスモデルの大幅な変更が必要と判断した」と説明する。”

“日本百貨店協会(東京・中央)によると、百貨店の衣料品の売上高は2023年に前年比10%増の1兆4580億円だった。コロナ禍からは回復傾向にあるものの、20年前(2003年、3兆2122億円)と比べると半減した。足元は物価高で消費者の節約志向が強い。店頭に大量の新品を並べてセールで売り切る旧来の百貨店モデルではもはや立ちいかないことが鮮明になってきた。旧大丸は1717年創業の古着商「大文字屋」を発祥とする。創業以来取り扱ってきた呉服は「染め替え」や「仕立て直し」などを通して、長く愛用されてきた品を使い回ししてきた。大丸松坂屋は循環型社会の先駆者だったわけだ。新品を仕入れて売る百貨店になったのはその後のことだ。大丸松坂屋は近年、J・フロントグループの共通理念として「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」への対応を経営の重点項目に置いている。2025年夏にはコメ兵ホールディングスとブランド品などの買い取りを始める計画だ。サブスクは祖業回帰の一面があると言える。循環消費のDNAを温故知新の精神のもとによみがえらせ、時代を先取りする進化に挑む。”

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