号外:ついに村ごと移転開始、永久凍土融解で、アラスカ
2019年10月27日付けNational Geographic電子版に掲載された記事です。
“2019年10月、米アラスカ州ニュートック村の住民がついに、新しい街への移住を開始した。北米ではほとんど例がない気候変動による移住である。ニュートックは、ベーリング海からほど近いニングリック川沿いにある人口約380人の村。ここに暮らす先住民族ユピックたちは、20年以上前から移住の準備を進めてきた。永久凍土の融解と浸食が原因で、洪水のリスクが高まり、家の周りの地盤沈下や崩壊も生じている。”
“そのため、20年以上前から移住計画と建設工事が進められ、10月に入ってようやく、新しい村がつくられるマータビックへの引っ越しが始まった。マータビックはニュートックから約16キロ南東のネルソン島にある。大雨の合間を縫って、18家族がマータビックへ引っ越し、エネルギー効率の良い住居で新生活を開始した。10月中にあと数家族が引っ越す予定だが、全住民の新居が完成するのは2023年以降になる見通しだ。”
“20世紀初頭までの数千年間、ユピックは季節ごとに野営地を移動し狩猟生活を送っていた。現在も自給自足の生活を送っているが、1949年、米内務省のインディアン事務局が現在のニュートックに学校を作り、村全体が定住を余儀なくされた。その後、気候変動によって地球の温度が上昇。極北の2300万平方キロ超に広がる永久凍土が融解し始めた。その結果、道路やパイプライン、建物の基礎が崩壊しているだけでなく、融解した凍土から温室効果ガスが放出され、地球の温度がさらに上昇している。しかも、海氷が減少し、沖合に移動した結果、高潮が川を逆流するようになり、河岸の浸食、村への浸水が起きている。海面上昇はこのような浸食を加速させる。”
“かつて安定していた土壌はニングリック川に削り取られ、多い時には年間約25メートルのペースで家々に迫っている。2000年代初頭に発表されたある論文では、早ければ2027年、村の大部分が水没すると予想している。しかし、他のアラスカの孤立した村がそうであるように、新居と移住資金の確保には長い時間がかかる。ニュートックの場合インフラが貧弱で、数十年間も水道のない暮らしを送ってきた。飲み水をタンクに貯めて使い、そのために衛生上の問題も起きている。2003年、連邦議会はついに、ニュートックより高い場所にある火山性の土壌に新しい村をつくることに同意した。2003年以降、少しずつではあるものの、道路やコミュニティーセンター、ごみの埋め立て地、発電所の建設費が州と国から支給されるようになった。数週間後にはマータビックで水処理施設が完成し、11月には新しい学校での授業が始まる。滑走路もつくられる予定だ。”
“60ほど必要な住居は、わずか3分の1の20軒ほどしか建設されていない。建設済みの住居も電気は通っているが、上下水道はまだ利用できない。コミュニティーが最も望んでいるのは、出来る限り多くの家を建て、移住することだ。上下水道の整備費が支給されるまでには何年もかかる可能性がある。しばらくの間、古い村を維持しつつ、約16キロ離れたマータビックで新しい村を築くことになる。しかし、これは決して簡単なことではない。コミュニティーの職員たちはマータビックとニュートックに分かれて暮らし、両方の学校に校長と教員を置くことになる。ビデオを使った授業も行われる予定だ。生徒も40人と60人に分かれる。様々な変化が起こり、人々は複雑な気持ちを抱いている。多くの人はニュートックしか知らず、その場所を離れることを悲しんでいる。その一方で、人々はより良いサービスを受けられる場所に移住できることを喜んでもいる。”
引用が長くなってしまいましたが、これは現実に起こっていることです。気候変動によって気温が上昇し、アラスカの永久凍土が融解を始め、海氷が後退して高潮による洪水のリスクが高まっている。危険に瀕した住民の移住準備は資金面の問題もあり遅々として進まず、20年の年月をかけてようやく移住が開始されたという話です。インフラの整備、移住の完了にはまだまだ時間がかかるようです。前に、北極圏の氷が解けることによる海水面の上昇で、今世紀末には島しょ国や沿岸都市が水没する懸念があることを紹介しましたが、世界の各地で気候危機が顕在化しています。
<海面上昇:今世紀末に最大1メートル超>の項参照
「最悪の場合、このようなことが起こるかもしれない」というような悠長な話ではなく、現在進行形で様々は危機が発生しています。自分の近くで起こっているのか、そうでないのかの違いだけです。手遅れになる前に、全世界で対策を実行する体制が必要です。