ナイキが北極海航路を利用しないことを宣言、企業の賛同促す

2019年11月19日付けSustainable Brand Japanに掲載された記事より

ナイキはNGOのオーシャン・コンサーバンシーと連携して「アークティック・シッピング・コーポレイト・プレッジ(北極海航路企業宣言)」を策定した。気候変動により北極海の氷が融解し、航行時間を短縮する新たな航路が開ける一方で、同社はそれらの航路の利用が環境に大きな影響を与える可能性を懸念。脆弱な北極海の生態系を通過する航路を選ばないことを約束した。アパレルを扱うコロンビアやH&Mなどに加え、海運業の長栄海運、ハパックロイド、MSCなどの企業がこの宣言に賛同、署名している。”

NIKEとOcean Conservancy

「世界の冷蔵庫」と呼ばれることも多い北極圏は地球の温度を調節し、気候変動に対抗する上で重要な役割を果たすが、気候危機の影響で他の地域の2-3倍の速度で温暖化が進む。氷が融解することで地球上の環境はさらに不安定になるだけでなく、北極圏の貴重な生態系を脅かしているという。”

“「ゼロ・カーボン」「ゼロ・ウェイスト(廃棄物)」を目指し「Move to Zero」を掲げるナイキは、「ナイキにとって気候変動対策とは、製品の設計と製造方法、世界中に製品を届ける方法を考えることを意味する」として「北極海航路企業宣言」を策定した。「今回の宣言で、私たちは地球を守る、北極海を保護するために役立ちたいという明確な選択をした。それは北極海を利用することではない。」と同社は述べている。”

“ナイキと協働し宣言を策定したのは、米国に本拠を置き海岸のクリーンアップ活動などを行うNGO「オーシャン・コンサーバンシー」だ。「ナイキが北極海を健全に保つことが誰にとっても責任のあることであり、それが本当に大事なことであるという認識を持ってくれたことを賞賛する。」とし、「今回の発表によって危険な北極海輸送を防ぐために、必要とされる行動を促し、世界的な輸送に伴うCO2排出を削減するためのさらなる協力が生まれることを期待している。」としている。”

「北極海航路企業宣言」の全文については以下のSustainable Brand Japanのサイトをご覧ください。

https://www.sustainablebrands.jp/news/os/detail/1194796_1531.html

ナイキは、ご存知の通り世界最大のスポーツアパレル・用品メーカーです。アメリカのオレゴン州ポートランド市郊外のビーバートン市の、緑の多い広大な敷地に本社を構え、本社は「キャンパス」と呼ばれています。サッカー場、テニスコート、バレーボールコート、バスケットボールコート、400mトラック、フィットネススタジオ、オリンピックサイズのプール、ゴルフのパッティング・グリーンなんかもありますし、建物には「タイガー・ウッズ センター」や「マイケル・ジョーダン ビルディング」なんて名前がついています。本当に世界企業の本社というよりは、大学のキャンパスという雰囲気です。

ナイキの製品はアジアを中心に世界各地で生産され、世界各地で販売されています。ということは、その物流網は世界中に張り巡らされているということですね。ナイキほどの規模の世界企業になれば、自社製品の設計と使用素材、その製造における環境負荷に配慮するだけでなく、世界規模の「物流」における環境負荷にも配慮する必要があります。「北極海航路企業宣言」は、ナイキがその認識を持ち、行動に移していることを示しています。

地球温暖化によって北極圏の氷が融解しているというニュースに接すると、地球規模の気候危機を悪化させることや、北極圏の生態系が破壊される懸念が想定されます。と同時に、新たな航路が開かれることにより、大陸間海上輸送時間を短縮するビジネスチャンスが存在するということには、あまり関心が向いていませんでした。しかしこの新航路の利用は、ナイキやその賛同企業が主張するように、明らかに北極圏の環境破壊を促進することになります。私たちが考えなければならないのは、新航路を開くことよりも、北極圏の氷の融解を止めることです。そして北極圏の生態系を守ること(サステイナビリティ)です。安易な商業主義に走るのではなく、より多くの企業や関係者が「北極海航路企業宣言」に賛同し、北極圏の環境を保護するとともに、それ以外の地域でも、世界的な輸送に伴うCO2排出を削減するためのさらなる協力が実現することを期待しています。

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