号外:パリ協定のCO2削減目標を達成できる国はわずか

2019年11月8日付けNational Geographic電子版掲載記事より

2015年のパリ協定では、産業革命以前と比べて、地球の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることに各国が合意した。この数値を実現するために、世界184ヶ国が掲げたCO2排出量の2030年までの削減目標は、十分というにはほど遠い。一部の国はそれでも目標を達成できず、しかも上位の排出国のいくつかは、この先も排出量を増やし続けることが明らかになった。今月発表された報告書「The Truth Behind the Paris Agreement Climate Pledges(パリ協定の気候目標に隠された真実)」によると、CO2排出の削減に失敗すれば、人間が原因の気候変動による異常気象や新たな気候パターンにより、2030年には世界は1日あたり最低でも20億ドル(約2175億円)の経済的損失を被ることになるという。また人々の健康、生命、食、水、そして生物多様性もが脅かされる。

“気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の元議長は、「パリ協定の合意を達成するには、世界中の国が2030年までの削減目標を2倍、3倍にしなければなりません。」「排出を削減する技術も知識もあります。欠けているのは、それを実行に移すための十分な政策と規制です。現在、世界は今世紀末までに3~4℃の気温上昇へと突き進んでいます。」と語っています。”

もしそうなれば、自然界からの猛烈な反発が予想されています。永久凍土は大量に融解し、広範囲にわたって森林は死滅します。それによってさらに温暖化が加速して歯止めが利かなくなるかもしれません。科学者たちはその状況を「ホットハウス・アース(温室化した地球)のシナリオ」と呼んでいます。2℃未満というパリ協定の数値を達成し、ホットハウス・アースを避けるには、世界のCO2排出量を今後10年間で半分に削減し、2050年までには正味ゼロにしなければならないと指摘するエネルギー経済学者もいます。

“ところが、2030年に向けた184ヶ国の削減目標を分析してみると、ほぼ4分の3が不十分であることが判明した。世界最大の排出国である中国と、排出量4位のインドでは、2030年までに排出量が増える見通しだ。第2位は米国だが、その目標は低すぎる。11月4日にパリ協定からの離脱を国連に通告したトランプ政権の下では、それすら達成できるのかが危ぶまれている。第5位のロシアにいたっては、目標の設定すらしていない。第3位の欧州連合(EU)だけが、2030年までに少なくとも40%を削減するという目標を掲げ、その値は60%に近づくともいわれている。

報告書を公開したのは、ユニバーサル・エコロジカル・ファンドという、気候変動対策を促進するために、誰もがアクセスしやすい気候科学の情報提供を目指す非営利団体です。

富裕国による長期的な資金援助や技術支援がなければ、貧しい国々がCO2排出を大幅に削減するのは困難だといわれています。これまでに問題の主な原因を作ってきた先進国が、途上国でのCO2排出削減を支援してゆく必要があります。全世界の総力戦で対策を実施していかなければ、大きな災厄に見舞われる瀬戸際まできています。

“具体的には、エネルギー効率を大幅に改善させ、今後10年間で2400ヶ所の石炭火力発電所を閉鎖し、再生可能エネルギー発電に切り替えることが必要だ。これは可能であるばかりか、費用対効果も高い。ところが、現在世界中で250の石炭火力発電所が建設中であることを、報告書は指摘している。”

先の報告書とは別に、こうした現状に危機感を抱いた153ヶ国1万1000人を超える科学者たちが、11月5日付けの学術誌「Bioscience」の論文において、「世界の科学者による気候危機への警告」宣言に署名しました。宣言は次のように始まっています。「すべての壊滅的な脅威を人類にはっきりと警告し、事実をありのままに伝える倫理的義務が、科学者にはある。」

みなさんは、世界の科学者たちの地道な研究と、その結果から得られた、現状を踏まえたうえでの予測を、どのように受け止められますか。どこかの国の大統領のように、単なる大げさな、悲観的過ぎる不確実な予測だとして退けますか。私個人は科学者ではありませんが、私が入手できる情報から判断すれば、切迫した危機がすぐそこまで迫っているように思えます。日本でも、想像を超えるような大雨や、大型台風の上陸が実際に発生しています。時間が経過すればするほど状況は悪化してゆき、危機を回避するためにはより膨大な努力が必要になります。あるいは、回復不能な限界点を超えてしまうかもしれません。人間が自然をすべて理解していて、コントロールする力を持っていると考えることは、極めて傲慢で危険なことです。しっかり現実に目を向けて、謙虚に受け入れて、可能な限りの対策をとってゆかねばなりません。いうまでもなく、全世界が協力することが必要です。

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