号外:電力を自給自足する?、テスラの蓄電池
日本のエネルギー政策を、化石燃料頼りから再生エネルギー中心に転換する必要があることは、このHPでも触れています。地球規模の気候変動対策では、国の政策や国際連携が重要です。個人で努力できる環境配慮は色々ありますが、ことエネルギーについては、個人で対応可能な選択肢は多くありません。しかし、そのような状況も徐々に変わってゆくかもしれません。
私たちの生活に最も身近なエネルギーは電力です。日本では、福島第1原子力発電所の事故を機に、再生可能エネルギーによる発電量の全量を高い価格で買い取る制度を導入し、太陽光パネルの普及を図ってきました。しかし市場原理を無視した価格であったため、制度そのものが行き詰ってしまいました。また太陽光発電では、発電可能な時間や得られる電力にバラツキがあるために、発電した電力をそのまま送電線へ送って売買する(その分自分の電気代が安くなる)システムでした。
個人で、自宅で電力を自給自足することはできないでしょうか。自宅への設置を考えれば、電源としては太陽光発電になるでしょう。自家発電・消費を増やすためには、天候や時間に左右される再生可能エネルギー発電(太陽光発電)の需給調整ができる蓄電池が必要になります。この蓄電池の価格が高いことが大きなハードルになっていました。
2020年2月17日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より
EVで著名な米テスラの蓄電池が、このような状況を変えるかもしれません。テスラが日本に投入する蓄電池「パワーウォール」は、蓄電容量1キロワット時あたりの価格でみると、国内の既存製品より格段に安く設定されており、太陽光パネルの設置費用などを考慮しても、電力会社から電気を買うより合理的となる水準に迫っています。パワーウォールの累計販売台数は欧米を中心に5万機を超えています。日本での価格は蓄電容量13.5キロワット時で99万円と設定され、1キロワット時あたり7万円台前半です。容量の小さい国内メーカーの製品は同20万円弱から30万円強が多くなっています。
“テスラ製の蓄電池が大きな注目を集めるのは、電力会社から電気を買うより蓄電池を活用して自家発電した方が安くなる節目である「ストレージパリティ」の一歩手前の価格水準だからだ。三菱総合研究所の最新の試算によれば、新規に太陽光発電パネルを設置する戸建て住宅の場合、蓄電池が6万円/キロワット時になると、ストレージパリティを下回る。試算は日本メーカーが主力製品を投入するゾーンである容量5キロワット時の蓄電池を前提としている。テスラが発売する蓄電池は容量が2倍超と大きいものの、日本でも家庭の非常用電源として活用するには大容量化が必要になるとの見方が多い。”
“テスラが低価格製品を販売できるのは、電気自動車(EV)向けの蓄電池をつくる大型の生産設備を持っていることが一つの要因とみられるが、それだけでは説明しきれない。三菱総合研究所は「テスラは直販なのに対し、国内メーカーは卸売業者を間に入れていることも要因だ」と説明する。”
“価格面の大きな前進で再生可能エネルギー発電の普及に弾みがつくと何が起きるのか。「電力会社のビジネスモデルが根底から変わる」との指摘がある。電力小売りの売上は減少し、送電線の利用料を徴収する「託送料金」の収入にも響くためだ。ドイツ貿易・投資振興機関によると、同国では2018年にストレージパリティに到達した。現在は太陽光などの分散した発電所をまとめて運用する仮想発電所(VPP)事業が急拡大している。”
“電力会社がこうした将来を予測し始めると、火力や原子力などの大型発電所への投資よりも、VPPなどの新しいビジネスに先手を打つ動きが増えてくると言われている。電気会社を中心とした集中型の電力供給から、各地でつくられる再生可能エネルギーによる電力を融通しあう分散型へと転換し始めるのは案外近いかもしれない。”
大容量の蓄電池が低価格で供給されることによって、集中発電から分散発電への大転換が起きる可能性があります。技術革新によって、再生可能エネルギー発電による電力の自給自足が促進され、余った電力が融通されるシステムが構築されれば、(石炭)火力発電や原子力発電に頼らない持続可能なエネルギー社会を実現できます。地球温暖化対策にも大きく貢献するでしょう。既存システム(電力会社)からの転換過渡期には、色々な摩擦もあると思いますが、電力会社も新たなビジネスチャンスと前向きに捉えて取り組んで欲しいと思います。官民をあげて、石炭火力発電所の輸出をしている場合ではないと思います。