クモの糸が導く繊維革命、Spiber(スパイバー)

私たちが日頃身に付けたり、使っているもの、シャツ、ネクタイ、腕時計、スマホ、マウス、パソコン。そのどれもが、原料を辿れば地球の資源だったものです。地球の人口は増え続けています。資源を消費するスピードも上がり続けているのです。山形県鶴岡市。田畑の広がる自然豊かな地域で、持続可能な未来につながる新素材の開発に取り組む企業があります。クモの糸をヒントに、化学繊維の誕生以来の繊維革命を目指すSpiber(スパイバー)です。

2020年3月16日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事、他より、

“2019年12月。スポーツ用品のゴールドウィンと共同開発したアウトドアジャケット「ムーン・パーカー」が50着限定で発売された。素材にスパイバーの「ブリュード・プロテイン」を使っている。開発着手から4年。耐久性や安定性の面で難易度が高いアウトドアジャケットでの実用化に成功した。”

ブリュード・プロテインは人工たんぱく質でできた繊維だ。スパイバーは多様な糸を自らつくり出すクモの糸の遺伝子の分析を通じ、様々な性質を持つ人工たんぱく質の糸をつくる技術を持っている。”

クモの糸は昔から夢の素材だと言われていた。天然のクモの糸は重さあたりの強靭性が鋼鉄の340倍、炭素繊維の15倍と言われている。もしかしたら、重さ当たりの強靭性で言うと地球上で最も強い素材といえるかもしれない。クモの糸は「フィブロイン」と呼ばれるたんぱく質からできているので、原料を石油などの枯渇資源に依存することなく生産することができ、生分解性があるため再資源化も可能だ。

“天然のクモの糸は、たんぱく質でできているが、このたんぱく質は、20種類のアミノ酸によってできている。この20種類のアミノ酸の並ぶ順番が変わることで、ウールやカシミヤ、人間の髪や皮膚などさまざまなものになる。この設計図が書き込まれているのがDNAで、アミノ酸配列と遺伝子配列のデータを解析し、新しいたんぱく質の分子をデザインし、その遺伝子を合成し、微生物を用いた発酵培養によって人工たんぱく質を製造している。そして、その微生物の餌となるのは糖だけだ。

“これまでは、コストの問題や技術的な問題があって、たんぱく質を材料として使いこなしてゆくことができなかった。この10年、20年くらいでバイオテクノロジーやITなどさまざまな技術が成熟してきて、今初めて実用化が可能になろうとしている。たんぱく質を素材として使いこなせるようになれば、他にもさまざまなものに活用できると考えられている。”

“2021年にはタイ工場が稼働する予定。生産量は現在の年数トンから数百トンに拡大する。体制が整えば、本格的に受注を始める。製品化はアパレルが先行するが、使い道として想定するのはあらゆる産業だ。将来は繊維需要の10~20%を満たしたいとしている。スパイバー本社に隣接しているのは、慶應義塾大学生命科学研究所(IAB)。スパイバーは、このIABで行われていた研究から生まれた企業だ。IABは山形県鶴岡市に根を張り、スパイバーの他にも世界を変えうるバイオベンチャー企業を生み出し続けている。”

「クモの糸」からヒントを得た「ブリュード・プロテイン」の事業化を進めるスパイバーを率いる関山和秀氏は37歳という若さです。バイオテクノロジーを活用して生産される強靭な繊維は、新しい素材として大きな可能性を秘めていると評価されています。その生産に必要なものは、微生物と「糖」。持続可能な環境負荷の少ない材料としても期待されています。現時点では、生産量も少なく、高コストになっているようですが、タイ工場での量産化および将来の生産量拡大によって、その点も改善することを目指しています。

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