号外:パリ協定に主要国後ろ向き、日本も温暖化ガス削減目標上積み見送りか?
このところ、日本も世界も新型コロナウイルス肺炎の感染拡大に直面しています。健康被害だけでなく、経済面でも様々な問題が発生し、各国は感染症対策と経済対策を両建てで実施しています。感染症の収束がいつ頃になるのか、経済的な悪影響がどの程度になるのか、予断を許さない状況が続いています。その一方で、2020年から本格運用が始まった温暖化対策の国際枠組みの「パリ協定」ですが、主要国の足並みが揃っていません。当面は危機対応が優先されるかもしれませんが、その間に気候変動問題が無くなってしまうわけではありません。
2020年3月22日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“2020年から本格運用が始まった地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に背を向ける国が主要国で続出している。11月に正式離脱を控える米国のほか、かつて環境先進国だったブラジルやオーストラリアが消極姿勢を示す。日本も提出する温暖化ガスの削減目標について上積みを見送る見通しだ。国連は2月ごろから削減目標の提出を求める。各国の動きはにぶく、パリ協定は船出から試練を迎えている。国連は「今世紀半ばに温暖化ガス排出量を実質ゼロにできるか、今年は節目の年だ」として、1月には米中日、インド、ロシアなど主要国を名指しし温暖化対策の強化を求めた。”
“パリ協定に先行して1997年に採択された「京都議定書」は、先進国だけに排出削減を義務付けた。中国やインドなどの新興国の排出量が増え、先進国の不満が高まり削減は滞った。反省を踏まえ、パリ協定は発展途上国にも排出削減を求めた。排出量2位の米国はパリ協定からの離脱を表明済み。1位の中国や3位のインドは再生可能エネルギーや低炭素技術の導入を進めるなどとする。「我々は新興国。先進国が先行して対策を示すべきだ」との立場で、率先して石炭火力を廃止するといった動きはない。”
“かつての環境先進国にも消極的な国がある。石炭などの化石燃料に経済を依存するオーストラリアだ。全土に拡大した山火事は気候変動が一因とみられるが、雇用を維持するために化石燃料産業の縮小には消極的で、島しょ国は批判を繰り返している。2019年に森林火災が多発したブラジルも対策に及び腰だ。政府は温暖化に懐疑的で、熱帯雨林アマゾンの開発を推進している。”
“温暖化対策に積極的なのは欧州連合(EU)だ。欧州委員会は1月、域内で温暖化ガスの排出を2050年に実質ゼロとするために120兆円に上る投資を今後10年間で実施する計画を発表した。しかし欧州も一枚岩ではない。発電の8割を石炭に頼る主要国ポーランドは実質ゼロ目標への参加を見送った。石炭火力に依存しながら脱炭素化する方法を模索しており、急速にかじを切るEUとは一線を画す。”
“国連は削減目標の引き上げを求めている。パリ協定は地球の気温上昇を産業革命前の2℃以内に抑える目標を掲げる。すでに各国が策定した削減目標を足し合わせても3.2度上がる。パリ協定が有効に働くためには、各国が2020年中に提出する目標が意欲的なものである必要がある。日本の現状では石炭火力の廃止などを打ち出すことは難しく、削減目標の上積みも厳しい。各国の事情は異なり国際協調は簡単ではなく、各国が努力を怠れば、すぐにでもパリ協定の実効性は失われる。”
現在の感染症対策は極めて重要です。先ずは健康で安全な日常を取り戻さなければなりません。世界で人と物の移動が滞り、多くの産業でサプライチェーンが分断され、世界の産業・経済が大きなダメージを受けています。経済危機への対策は必要ですが、その影響で地球温暖化対策が後退するようであれば、将来に大きな禍根を残すことになります。経済危機への対策が、近視眼的な対症療法に陥るのではなく、再生可能エネルギーへの転換を促進し、温暖化対策にもつながるような発想の転換が必要です。世界各国が連携し、技術と知恵を結集すれば、人類がこの難局を乗り切ることは可能だと信じています。