号外:コロナウイルス、脱炭素の契機に!

2020年4月4日日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

新型コロナウイルスの世界的流行で温暖化ガスの排出が急減している。都市の封鎖や工場停止、航空便のキャンセルなどが相次ぎ、社会や経済がマヒしているためだ。だが、いずれ終息して経済が回復すれば短期間に排出が増える。化石燃料に依存する経済から脱却する機会と捉え、再生可能エネルギーなどに投資を振り向ける必要がある。”

世界的な減便で駐機する航空機

“流行地域ではエネルギー消費や移動が減り、化石燃料などの使用に伴う大気汚染物質の排出が記録的な低水準になった。中国の2月の排出量は前月比で25%も減った。インドの一部都市でも温暖化ガスを含む排ガスの量がこの時期で最小となる日もあった。「空が青い」というSNS(交流サイト)の投稿も相次いだ。”

“イタリアでも二酸化窒素(NO2)の濃度が過去1カ月の間、毎週約10%減が続いている。3月半ばのニューヨーク市の交通量は前年比で35%減った。米航空宇宙局(NASA)の衛星写真でも、その差は一目瞭然だ。経済活動が地球温暖化の要因であることが明確になった形だ。ただ人の自由や雇用が失われる温暖化ガスの削減は誰も望んでいない。

「新型コロナウイルスは緊急の脅威だが、より大きな脅威は気候変動だ」。国連気候変動枠組み条約のエスピノサ事務局長は2日、強調した。今回の減少は一時的で中期的には温暖化ガス削減にはブレーキになる可能性が高い。”

“太陽光パネルの最大供給国である中国の新エネルギー商工会議所は2月、「工場の操業停止で海外市場への部品輸出に大きな影響が出ている」と明らかにした。インドでは300万キロワット分の太陽光発電の完成が延期の危機で、フィリピンでも同様の事態が起きている。欧州のシンクタンクは20年の世界の風力発電の新規導入量が当初見込みより4.9ギガワットも減る見通しを示した。

中国では、景気浮揚のため温暖化対策を緩め始めつつある。現地の報道によると、電気自動車(EV)の生産義務付けの緩和や排ガス規制の導入延期も検討しているという。チェコのバビシュ首相は「今は新型コロナウイルス対策に集中すべきだ」と訴える。各国は航空産業や観光、飲食業などの支援や救済に巨額の予算を投じ始めている。”

“2008年のリーマン・ショック後の景気後退で、世界の二酸化炭素(CO2)排出は減ったもののすぐに急増し、最高を更新し続けている。各国が実施した景気浮揚策が化石燃料の使用増を招いた。

“新型コロナウイルスなどの影響で原油の価格は暴落した。代表指標である米WTI先物は年初から60%も下がった。リンクする天然ガスの価格もそうだ。経済に大きなダメージを受けた国々は化石燃料を使う誘惑にかられる。それでは熱波や台風、洪水などウイルスとは別の危機の芽を育てるだろう。

“これまでとは違う動きもある。国際エネルギー機関(IEA)は3月、太陽光発電などの再生可能エネルギーや蓄電池、水素などへの投資の有効性を訴えた。ファティ・ビロル事務局長は経済の活性化と化石燃料依存から脱却するため、政府の投資が重要だという。同氏は「気候変動の脅威は今後数十年残る」と強調する。”

「経済回復のために、気候変動に対応したインフラや建設業、自動車産業に集中投資すべきだ」と欧州議会環境委員会の委員は訴える。「50年の温暖化ガスの排出量実質ゼロ」を掲げる欧州委員会は景気浮揚と温暖化対策を兼ねた12兆円規模の事業を発表している。”

“2020年はパリ協定が本格運用する重要な年だった。約190カ国は第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向けて温暖化ガスの削減目標を示し、具体策を議論するはずだったが、会合は延期になった。パリ協定の連帯の機運がそがれそうな気配だ。各国はかつてない規模の財政出動や税制措置を打ち出す。「脱炭素」への投資に向かうようにできれば、地球規模の課題を解決する道が開けてくるはずだ。

新型コロナウイルスの世界的流行が止まりません。今日(4月12日時点)の報道では、日本国内の感染者数は7261人、死者数は138人です(クルーズ船関係は含みません)。世界では170万人以上が感染し(アメリカは約53万人)、10万6千人以上の方が亡くなっています。日本では4月7日に「緊急事態宣言」が出されました。

世界の緊急事態宣言

このため、世界で社会や経済が機能不全に陥り、結果として温暖化ガスの排出が急減しているようです。しかし、これは決して喜べる状況ではありません。記事にもあるように「人の自由や雇用が失われる温暖化ガスの削減は誰も望んでいません」。いずれこの災いが終息して経済が回復すれば、温暖化ガスの排出量は再び増加するでしょう。感染症の影響で、太陽光発電の完成が遅れたり、風力発電の導入が減少したりもしています。

世界中で経済は大きなダメージを受けており、各国は今までにない規模で経済浮揚策を打ち出す準備をしています。それらの投資を、化石燃料の使用を増加させる方向ではなく、「脱炭素」を促進する方向で検討して欲しいと思います。「経済回復のために、気候変動に対応したインフラや建設業、自動車産業に集中投資する」ことができれば、今回の災厄を乗り切るだけでなく、将来の環境を保全することにもつながるでしょう。コロナウイルス感染症対策を進め、世界の人々の健康と命を守ることは何より重要です。また危機に陥った経済を立て直すことも必要です。その一方で地球温暖化の問題がなくなるわけではないことも忘れてはならないと思います。どのような方針で経済復興策を進めるのかは、非常に大切なポイントです。

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