号外:人類が引き起こした気候変動の影響!

2020年3月31日付け日経ビジネス電子版に掲載された松本哲人氏:国際通貨基金(IMF)調査局シニアエコノミストのコラム「気候変動の経済学」より、

地球温暖化対策は待ったなしの状況だ。オーストラリアや米カリフォルニアでは平均気温の上昇とともに、異常乾燥による山火事が頻発している。日本でも、大型台風が直撃する頻度が高まり、被害を伴いながら発せられる地球からの警告は、他人事ではなくなっている。地球の平均気温が上昇し、異常気象の発生頻度の上昇もその影響なのだ。まとめて気候変動とも称される。日本を襲った大型台風や、オーストラリアや米カリフォルニアの山火事の規模などは、気候変動による人的・経済的損失の大きさが、無視できないレベルに来ていることを知らせる。この気候変動の大きな要因は化石燃料の燃焼によるCO2排出であり、その削減は急を要する。

“地球温暖化という名称は、地球各地において、平均気温の数年分の平均値が、産業革命以前に比べ上昇している現象に基づく。平均値は地域的な横断面と時系列で取る。したがって、地球全体の大気の平均気温が前年と比べて若干低くなったところで、それは統計的な誤差だと見なされる。人間にとって、この温暖化は非常にゆっくりと進行していると感じられる。ただ、この緩やかな気温の上昇が地球上で均一に進んでいるわけではないこと、また、氷河の融解による海面上昇といった分かり易い現象以外にも、海水温の変動幅も上昇し、異常気象の発生頻度も上昇するといった現象が、地球温暖化とともに起きている。人類には緩やかに感じられるといえども、このわずかな上昇が生態系に及ぼす影響は、よく理解されていない。”

“気候変動が人類に及ぼす影響は、異常気象の増加による自然災害によるものと、温暖化による生態系の変化によるものがある。異常気象の増加は、洪水や山火事などの影響を受けやすい地域がより損失を被ることになる。今シーズン見られた日本や欧州での降雪不足によるスキー場の窮乏も、こうした異常気象の影響といえる。異常気象が増加することで経済的コストが発生するということは、わかりやすいであろう。

“かつては寒冷地のロシアなどでは温暖化により耕作地が増え、経済的な利益が増えるのではないかとみられていた。しかし、永久凍土の上に多くのインフラが設置されているため、温暖化により永久凍土が融解することによってインフラが破損するという損失が無視できず、自然条件の変化というのは基本的には経済的なコストが発生するものだと認識されている。

“人類に及ぼす影響以上にその影響が計り知れないのが生態系への影響である。温暖化による植物の分布の変化は飢饉やその植物を利用する動物などへの影響がある。また、生態系の変化に伴う森林破壊によりCO2吸収量が減少することもあり得る。そして、最も恐れられているのが海水温の上昇による植物プランクトンの生態変化である。日本ではサンマの漁獲量の変動などによって、その影響を感じられるかもしれない。しかし、地球上の酸素供給量の70%は、地上の植物によるものよりも海水の植物プランクトンによるものであることはあまり知られていない。この小さな生き物が地球温暖化の影響により直接的にあるいは間接的に存亡の危機にさらされる可能性は、無視できない。プランクトンの減少による漁獲量の減少は実は大した問題ではない。植物プランクトンの減少の結果、地球が酸欠に陥る可能性が否定できないのである。

“温暖化の1つの問題は、平均気温で見ると緩やかに思えても、生物の適応速度に比べると光速ほどの速さで進行していることである。その結果、いつ不可逆的な変化が起きるのか不明であること、そして、こうした不可逆的な変化が起きた時の影響が不明であることが問題である。地球温暖化が引き返すことのできないほどの大きな変化を引き起こし、その結果、人類が危機に陥る可能性があることを認識していただきたい。

気候変動の影響による自然災害、例えば大型台風が日本を直撃するようなことは、私たちの目に見えますし、実際に被害を被ってもいますから、十分に認識することができます。しかし気候変動の影響は、そのように分かり易いものばかりではありません。「地球上の酸素供給量の70%は海水の植物プランクトンによるものである」ことは全く知りませんでした。そして、「海水温の上昇で、植物プランクトンが存亡の危機にさらされる可能性があり、植物プランクトンの減少の結果、地球が酸欠になる可能性が否定できない」となると、本当に人類存亡の危機ということになります。

「温暖化の1つの問題は、平均気温で見ると緩やかに思えても、生物の適応速度に比べると光速ほどの速さで進行していることである」という指摘には、私たちの認識を改めなければならないと思います。私たち一般人は、どうしても自分たちの物差し(経験値)で物事を判断しがちです。気候変動は地球規模で進行しているのですから、私たちの小さな物差しで測れるものではありません。世界中の科学者が警鐘を鳴らしています。その声に真摯に耳を傾けて、現在進行していることを正しく理解して、そしてできるだけ速やかに可能な対策をとってゆかねばならないと思います。

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