号外:コロナ経済対策における環境重視の観点
2020年5月18日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“各国政府が、新型コロナウイルス蔓延への経済対策に合わせて環境保護の取り組みを進める。フランスは航空会社の救済条件としてCO2の排出を減らすように求め、カナダは主力産業の石油・ガス業界にメタン排出を抑える設備導入を促す。経済効果だけでなく地球温暖化への対策を狙っており、金融市場もこうした財源となる国債投資に前向きだ。”
“仏政府は仏蘭航空大手エールフランスKLMへの融資に条件を付けた。鉄道ならば2時間半以内で行ける距離の国内線の減便と、2024年までのCO2排出量の5割削減を求めた。航空会社は世界のCO2排出量の2%を占める。仏政府は2008年に国内の航空業界と環境協定を結び、飛行機の排出削減に焦点を当ててきた。今年1月には自国発の航空券にエコ課税を導入、資金は排出量の少ない鉄道網の整備に回す。コロナ対策の支援にあわせ輸送シフトを推し進める。”
“こうした動きは環境意識が高い欧州だけではない。カナダは石油・ガス産業の雇用を守ると同時に、温暖化ガスの一つであるメタン排出を抑える投資資金を融資。排出量を2025年までに2012年比4割以上減らすための規制の効果を高める。ニュージーランドは経済対策として老朽化した鉄道やフェリーをCO2排出が少ない新型に切り替える。”
“世界各国は新型コロナへの経済対策に8兆ドル(850兆円)以上を用意した。雇用維持のための補助金などに加え、経済の再成長に向けた対策を求められている。財源も限られる中、温暖化ガスの排出抑制など長期的な政策目標にもかなう対策を優先することで国民の理解を得る狙いだ。ドイツのメルケル首相も「景気刺激策を打ち出す際には環境保護の観点が欠かせない」と強調する。資金を出す機関投資家もコロナ対策で環境への配慮を求めている。国連の責任投資原則(PRI)に署名する投資家などからなる団体は5月4日、主要国政府への声明文で企業救済にあたってのCO2排出削減の義務付けや、低炭素化につながる建築・輸送システムの整備などを求めた。”
“環境事業に資金の使い道を絞った「環境債」は社債に加えて国債でも発行が増えてきた。調査会社リフィニティブによると、これまでに8か国・地域が合計361億ドルを調達。コロナ対策でも環境債なら財源確保のコストが下がる可能性がある。今のところ国ごとの差は大きい。英戦略コンサルタントのビビットエコノミクスは主要16か国のコロナ対策を分析し、フランスを高く評価する一方、自動車の燃費など環境規制を緩める米国の点数を先進国で最低にした。日本の緊急経済対策にも環境の視点は乏しい。次世代型の対策かどうかが、中長期の成果を分けそうだ。”
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、世界中で人々の活動が制限され、世界各国の経済は大きなダメージを受けています。各国政府は感染拡大を抑制すると同時に、経済復興のための政策にも着手しています。しかし経済復興を急ぐあまり、短期的なコストを抑えて、環境規制を緩和するような方向に向かうのか、あるいは経済復興と地球温暖化などの重要な政策目標をしっかり組み合わせ、技術革新によって社会と生活の再構築を目指すのかで、中長期的な成長力には大きな差がつくことでしょう。また資金調達の面でも、環境に配慮した施策への評価が重要になってきています。欧州を中心に、経済復興には環境保護の観点が不可欠であるという考え方が強くなってきています。現在日本でも、緊急事態宣言終結後の経済復興対策についての議論が行われていますが、残念ながら環境保護や地球温暖化対策といった観点からの意見はあまり聞こえてきません。膨大な資金を投入して経済対策を実施する今だからこそ、しっかり考えなければならないことだと思います。