号外:生物多様性から見た新型コロナ・パンデミック③:パンデミック後にどのような社会を創るか?
今回のパンデミックを通して、私たちにとって何が大切なのかを考えた方も大勢いらっしゃると思います。人間とウイルスの戦いはこれが最後ではありません。私たちはどのような生活に、新しい日常に移行してゆけばいいのでしょうか。生物は相互に依存した非常に複雑で、しかしレジリエントな生態系を作り上げてきました。人間は、それを尊重し、保全しながら生活してゆくことを考えなければならないのだと思います。人間の都合である「経済効率性」を押し付けることでは状況を悪化させるだけで、何も解決しないでしょう。
2020年5月18日付けSustainable Bland Japanに掲載された記事より、
“私たちは今回、自分や大切な人の命のリスクを通じて十分に学んだはずです。命を支える医療サービス、食糧や水、そうした一番大切なものはどんな時にでもアクセスできるように、なるべく手元におくことが重要だということを。そして、命や生活のリスクを感じることなく、家族や友達と一緒に過ごすあたりまえの日々は何よりもかけがえのないものであることを。これこそ、私たちが目指すサステイナブルな社会に欠かすことができない要素です。サステイナビリティを優先することは、私たちの生活を安全で安心なものにするために、そしてそのような状態が実際に継続してゆくことを第一に考えるということです。もちろん、あなたの仕事や勤め先が継続してゆくためにもです。”
“そんなことではグローバルな経済競争には勝てないと思うかもしれません。消費者は何より価格を気にすると言う方もいるでしょう。けれど、新型コロナ・パンデミックを経験した後、何を大切にするようになるかは私たちの考え次第です。目の前の商品が少し安いか高いかということより、どちらがよりサステイナブルか、皆がそれを優先するようになれば、企業の姿勢も変わります。”
“企業経営の立場からも同じことが言えます。平時の経済効率だけを考えていたのでは、いざという時の社会や顧客からの要請にうまく応えられなくなるばかりか、最悪、自社の持続性すら危うくなってしまいます。しかし残念ながら、それだけでは経済効率を優先する競合に負けてしまうかもしれません。だからこそ社会の持続可能性を何よりも大切にするという考えを明確に打ち出し、そのことを社会にしっかり発信し、実践し、ステークホルダーから応援してもらう必要があるのです。”
“これで人間とウイルスの「戦い」が終わるわけではありません。もちろん今回のパンデミックは何らかの形で収束するでしょう。しかし、それにはかなり長い時間もかかるでしょうし、その後にもまた別の感染症が発生する可能性はあります。人間以外の宿主があり、また人間よりはるかに早く進化するウイルスを完全に排除しようとしてもそれは無理な相談です。むしろ完全に排除しようとすることが別の問題を起こす可能性もあり、決して賢いやり方とは言えません。むしろ私たちは、ウイルスとどうしたら共存できるかを考えるべきなのです。うまく共存方法を見つけることができれば、また新しいウイルスや病原菌が発生し、新たなパンデミックになりかけても、スムーズに対処して、被害を最小にできるからです。”
“パンデミックでも困らないような暮らし方。そしてパンデミックを起こさないような経済。例えば大都市から離れ、人口密度の低い郊外や地方で生活することは、いざという時だけでなく、普段から生活の質を高めてくれるでしょう。それで十分に機能する経済に移行するために、必要な手段や方法はもうほとんど揃っています。後は私たちがどれだけ本気で移行するかです。”
“皮肉なことに、今回のパンデミックによって、地球環境の破壊は一時的に歯止めがかかったようです。自分にとって何がもっとも大切なのか、あらためて考えた方も多いと思います。生命誕生から38億年、生物が陸上に繁茂するようになってから4億年、何度かの大絶滅も経験しながら、生物は相互に依存した非常に複雑で、しかしレジリエントな生態系を発達させて来ました。それを「経済効率性」という一つの指標のみに最適化させることが、今回のパンデミックを引き起こしたのです。”