号外:回り始めた国内洋上風力発電!
利用可能な国土面積が限られる日本で、再生可能エネルギーの利用を拡大するために、洋上風力発電が期待されています。ようやく徐々に具体的になってきました。ただ現時点では、先行する欧州メーカーとの実力差も大きく、産業として育成してゆくための課題も山積しています。
2020年5月22日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“日本で洋上風力の普及に向けた順風が吹き始めた。海の上で土地の制限無く風車を置ける洋上風力は、国土の限られた日本で再生可能エネルギーを大量導入する切り札として期待される。発電事業者は実証実験や地域関係者との交渉に取り組み、ゼネコンや電線メーカーなども投資に乗り出した。経済効果が15兆円とも言われる再生エネの「ラストリゾート」を巡る争奪戦が本格化する。”
“2019年7月、清水建設は洋上風力発電用の風車を建設する専用船「SEP船」を造ると発表した。約500億円を投じ、総トン数2万8000トンの世界最大級となる専用船を建造する。SEP船は4本の柱を海底に伸ばして船体を固定し、波で揺れる海上でも安定して風車を建設できるようにする。清水建設のSEP船は幅50メートル、全長142メートル。現在世界最大とされる出力1万2000キロワットの風車3基分の全部材を一度に載せて海上まで運べる大きさだ。2022年の完成を目指す。”
“海上土木最大手の五洋建設も2019年11月、鹿島や寄神建設(神戸市)の3社で約185億円を投じ、共同でSEP船を造ると発表した。大林組は東亜建設工業と組み、SEP船の建造を進める。”
“日本風力発電協会は2030年までに960万キロワットの導入目標を掲げる。同協会によると、仮に2030年までに1000万キロワットの洋上風力が国内で導入された場合、経済波及効果は累計で13兆~15兆円にのぼるという。8万~9万人の雇用を生み出す効果も見込まれる。洋上風力は英国やドイツなど欧州が先行し、既に2200万キロワット導入されている。一方、日本では小型の実証機を除いてほとんど商用化されていない。洋上風力未開の地だった日本で関連投資が動き出した背景には、政府による促進策がある。政府は「海洋再生エネルギー発電利用促進法」を制定し、洋上風力の設置に適した促進区域を定め、発電事業者が海域を利用できる期間を最長30年間確保できるようにしたことなどが柱で、これで風向きが変わった。”
“2019年7月には促進区域の候補地として次の4ヶ所が発表された。秋田県能代市・三種町および男鹿市沖、由利本荘市沖、千葉県銚子市沖、長崎県五島市沖だ。このうち長崎県五島市沖は2019年12月に正式に促進区域に指定された。残る3海域も今年夏までには地域関係者などとの話し合いを経て指定される見通し。促進区域の候補地では、発電事業者の座を巡る争いが始まっている。戸田建設は2015年から長崎県五島市沖で出力2000キロワットの風車を置いて実証実験し、自治体や漁業者などと協議を重ねている。秋田県由利本荘市沖では再生エネ開発のレノバなどが2015年から地域関係者との交渉を進めてきた。東京電力ホールディングスは千葉県銚子市沖で2013年から実証実験し、環境影響を調査している。”
“洋上風力の建設には、建設資材を扱う拠点港の整備も必要となる。洋上風力の風車は約2万点の部品で構成される。風車の支柱部分や羽根は100メートル近い大きさのものが多く、重量も数十トンから数百トンに及ぶ。部品を海の近くで保管できる場所の確保が欠かせない。今回有望区域として発表された4つの海域の周辺の港では、拠点港としての指定を目指して整備を進めている。北九州港では約27億円を投じて、重量物に耐えられる岸壁の整備を急いでいる。”
“新たな産業創出のけん引役として期待の大きい洋上風力だが、要となる風車の生産では日本勢は不在の状況だ。2017年3月末で日本製鋼所が風力発電機の出荷を終え、2019年1月に日立製作所が風車の自社生産の停止を発表するなど、日本メーカーの撤退が相次いだ。市場開拓で先行した欧州で風車メーカーが育ち、大型再編を通じてメーカーの集約が一気に進んだためだ。2019年の世界シェアではスペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジーが全体の6割強を占める。ただ、洋上風力では総事業費に占める風車の割合は約4割で、残りの6割は運搬や組み立て、系統への連携などの建設工事といわれている。海の上で発電した電気を地上まで送る海底ケーブルでは、古川電気工業が総額150億円を投じ、海底ケーブルの生産能力を2倍超に高める。”
“調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスによると、2012年に1キロワット時あたり約24円だった世界の洋上風力の発電コストは、2018年には約13円まで下がった。ドイツやオランダなどでは発電事業者による入札で政府による補助金に頼らず落札するケースが増えてきている。日本では関連産業の育成も遅れていることから1キロワット時当たり36円での国による買い取り補助がなければ採算が合わず、事業が成り立たない状況だ。政府による固定価格での買い取り制度(FIT)ありきの事業モデルでは長続きしない。脱炭素でカギを握る洋上風力で、日本が持つ大きなポテンシャルを生かすことができるかどうか。持続可能性を高めるため、官民でコスト削減策に知恵を絞る必要がある。”