号外:原燃の再処理工場、安全審査に合格
青森県六ケ所村に日本原燃の核燃料再処理工場が建設されています。この施設は原子力発電所で使い終わった核燃料を再利用するためのものです。その完成は、なんと20年以上おくれており、稼働は2021年度以降になる予定です。日本のエネルギー政策、原子力発電政策の混乱と停滞を象徴するような事例です。
2020年7月29日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“原子力規制委員会は7月29日の定例会で、日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)について、稼働の前提となる安全審査の合格を正式に決めた。原子力発電所で使い終わった核燃料を再利用する政府の核燃料サイクル政策の要の施設は20年以上遅れている完成に向けて一歩踏み出す。残りの規制手続きや安全対策工事の完了などに1年以上を要する見通しで、稼働は2021年度以降となる。規制委は再処理工場の安全対策の基本方針について、2011年の東京電力福島第1原発の事故後にできた新規制基準に適合すると判断した。”
“再処理工場は全国の原発で出る使用済み核燃料から、原子炉内で燃えやすいプルトニウムとウランを取り出して、再利用するための施設だ。最大で100万キロワット級の原発40基分の使用済み核燃料を再処理できる。原燃は2021年度上期までに残りの規制手続きと工事を終えて工場を完成させる予定を示してきたが、情勢は厳しい。今後は、詳細な設計をまとめた設計・工事計画認可や使用前の機器の検査といった規制上の手続きが残る。規制上の手続きを終えて、地元自治体の同意を得ても、これまで試運転などでトラブルが相次いだ施設だけに順調に稼働できるかは不透明だ。”
“再処理で作った燃料の需要も限られる。福島第1原発事故の後に新規制基準に合格して再稼働した原発は全国で9基。このうち、再処理工場で取り出したプルトニウムを含む燃料を使える原発は4基にとどまる。プルトニウムは核兵器の材料になり得るため、国際社会からは日本の保有に厳しい目が向けられている。核燃料サイクルの前提となる原発の再稼働は進まないまま、電気代を主な原資に約3兆円という巨費を投じた再処理工場をどこまで有効活用できるのか今後問われることになる。”
“資源を輸入に頼る日本が原子力を「準国産」のエネルギーにすべく再処理工場を着工したのは1993年。当初は1997年に完成する予定だったが、トラブルで完成時期を24回遅らせてきた。最終的な試験にてこずっていた時期に、2011年3月の東日本大震災に伴う福島第1原発の事故が起きて、手続きが止まった。原燃は2014年1月に新規制基準に基づく稼働に向けた安全審査の申請を出した。前例のない施設で審査が長引き、合格までに6年以上かかった。再処理工場の完成が遅れた影響で、電力各社は使用済み核燃料を各原発などで長期間保管することを余儀なくされた。”
日本に原子力発電所は必要なのか、不必要なのか? なかなか明快な答えが見つからない、とてもやっかいな、しかし重要な問題です。<石炭火力見直し、エネルギー戦略の行方>の項でも触れたように、日本のエネルギー基盤は非常に脆弱です。地球温暖化対策として脱炭素を推進し、再生可能エネルギーの活用に切り替えてゆくことが必要です。その一方で、エネルギー(電力)は安定的に供給されなければなりませんし、日本の極端に低いエネルギー自給率(9.6%)と、割高な電気料金(米国や東南アジアの2倍、欧州連合の1.5倍)は、国家安全保障と国際競争力の観点から大きな課題です。このような状況下、日本のエネルギー政策において、原子力発電をどのように位置づけ、推進してゆくのか、あるいは撤退してゆくのか、しっかり考えなければなりません。この議論をこれ以上先送りすることはできないと思います。