号外:再生可能エネルギーが最も安い電源となる国

日本も2050年のカーボンニュートラルを宣言し、再生可能エネルギーの導入拡大計画を発表しました。しかし現状では、世界と比較して技術的、システム(制度)的に遅れています。色々な制約はありますが、導入実績を積み上げることで技術ノウハウが蓄積され、発電量が増えることで発電コストが低減されます。その結果として産業競争力、国際競争力の強化につながります。逆にここで躊躇していては、世界との差は広がってゆくばかりです。

2021年3月1日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

電化の時代が訪れる。カーボンゼロの達成には化石燃料をなるべく燃やさず、温暖化ガスを出さない電気で社会を動かす必要があるからだ。太陽光や風力を操り、電気をためる蓄電池を抑えた国がエネルギーの新たな覇者となる。日本も再生可能エネルギーの導入と電化を加速するときだ。”

ロッテルダム港の世界最大の風力タービン

“オランダ、ロッテルダム港。ひときわ目立つ巨大な風車がゆったりと回る。米ゼネラル・エレクトリック(GE)が製造した世界最大の風力タービンの実証機だ。高さは東京都庁を上回る260メートル。羽根は107メートルと東京ドームの本塁から外野両翼のポールに届く。1回転で1世帯の約2日分の電力を生む。建設中の英国沖ドッガーバンク風力発電所はこのタービンをまず190基建てる。完成時の発電出力は大型原発3基分の360万キロワットで英国の電力需要の5%をまかなう。”

世界の最安電源

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の試算では世界の電力需要は2050年に48兆キロワット時と2017年の2.2倍になる。脱炭素のため石油や石炭の代わりに電気で車や工場が動くからだ。しかもCO2を出さない電気がいる。再生可能エネルギーの発電量は7.5倍になり、全体に占める比率も25%から86%に高まる。再生可能エネルギーによる「大電化時代」が始まった。日本政府は現在ほとんど実績のない洋上風力発電を再生可能エネルギー拡大の切り札とする。2040年に発電出力を計4500万キロワットまで増やす計画だが、2020年の発電量に占める再生可能エネルギーの比率は英国42%、ドイツ45%に対して日本は2割にとどまる。周回遅れの感は否めない。”

“調査会社ブルームバーグNFFは発電所を新設した場合にどの電源が一番安いかを国・地域ごとに調べた。1世帯が4ヶ月間に使う1000キロワット時の電気をつくる場合、最も安い電源は日本が石炭火力74ドル(約7800円)、中国は太陽光33ドル、米国は風力36ドル、英国は風力42ドルだった。日本は太陽光124ドル、風力113ドルと高い。再生可能エネルギーが最安電源である国・地域の国内総生産(GDP)をあわせると世界の4分の3に迫る。再生可能エネルギーが最安の国を緑、天然ガスが最安を灰色、石炭ならば黒で世界地図を塗ると「緑の世界と黒い日本」が浮かぶ(上記地図)。

再生可能エネルギーの発電コスト

“数年前まで石炭やガスが優位だったが、技術革新と規模拡大でこの10年間で太陽光は8割、陸上風力は4割安くなった。石炭火力から撤退を進める独電力大手RWEは、「再生可能エネルギーのメジャープレーヤーに変身しなければ将来はない」としている。”

日本はクリーンな風力や太陽光を使って発電しても電力会社の送電網につながりにくい。送電網の運用が電力会社から完全には独立しておらず、電力会社の自前の火力発電所や原発の接続が優先される。英国も風力発電が急増し、送電網の容量が不足した。2011年から発電量が多すぎる時は風力などの出力を抑えることで、再生可能エネルギーも送電網に接続しやすくした。再生可能エネルギーは発電出力が天候に左右され、電力供給が送配電網の容量を超えることもある。その場合は再生可能エネルギー事業者に出力抑制を求め、電力の需要と供給を均衡させる。その際、発電事業者には抑制を受け入れた対価を支払う。送配電網の容量が空いたときだけ接続できた従来に比べ、再生可能エネルギー事業者にとっては投資や採算を計算しやすくなった。これによってイングランドの再生可能エネルギー導入量は2011年の約6000万キロワットから2017年に約2500万キロワットに拡大した。”

“日本も2021年に英国をまねた制度を全国に広げるものの、抜け道がる。送電網が満杯になれば再生可能エネルギーの出力を抑えるのは同じだ。英国は送電会社が再生可能エネルギー事業者に補償金を払う一方、日本は払わずに済む。大手電力は迷わずに再生可能エネルギーの送電を止めることができ、大手電力にとって有利な制度だ。カーボンゼロに向けた電化競争は、再生可能エネルギーを早く普及させた国ほど有利になる。再生可能エネルギーを妨げる制度を見直し、大量導入とコスト低減の歯車を一刻も早く回さなければ、日本は世界から完全に取り残される。

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