衣料品のケミカルリサイクル:その可能性と制約
前回、廃衣料リサイクルの中心はマテリアル・リサイクルであることを紹介しました。歴史的には繊維製品が貴重品であった時代から繊維製品の再利用(マテリアル・リサイクル)は行われてきました。ケミカル・リサイクルとは使用後の化学製品に化学処理を施し製品の原料として再資源化することです。
衣料品分野では、現在大量に使用されている合成繊維が主たる対象となるリサイクル方法です。これまでに合繊メーカーが、自社素材で作られた衣料品をその使用後に回収し、自社工場で粗原料に戻し(解重合)、その粗原料を製造工程で再利用した例があります。この場合、「易リサイクル製品設計」として回収後の素材分別がし易い製品設計(素材選定、組合せ指定、縫製仕様の指定等)を求めることもあるようです。これらは粗原料として自社の製造工程に投入することを想定しているため、基本的には対象を自社製品に限定しています。自社素材に限定して小規模にこのような取り組みをしても、合繊メーカーに経済的なメリットがあるとは思えません。回収の手間自体、回収した製品の仕分けや異物の除去などの作業を考えると、デメリットの方が大きそうです。しかし技術的には原料としての再利用が可能であることを示し、自社の環境に配慮する姿勢を示すことができます。
このような取り組みを大規模に実施するとしたら、どのような課題があるでしょうか。
一般的な衣料品を幅広く対象と考えるなら、ある程度の「易リサイクル製品設計」は必要でしょうが、例えば各社で微妙に組成が異なるポリエステルは「同じポリエステル」として扱える技術の確立が必要です。混紡や複合への対応も適用できる分離技術が確立できるかどうかにかかってきます。適用できる技術がなければ、そのような素材はケミカル・リサイクルの対象から外れます。また当然ですが、使用後衣料品の回収と素材分別の仕組みを作り上げる必要があります。反毛のようなマテリアル・リサイクルと比較するとより精度の高い素材分別が必要になります。
ファッションには多様性が求められます。ひとりひとりが気に入った服を選ぶためには、幅広い服の品揃え(素材、デザイン、カラー、サイズ等)が必要です。流行自体はある程度「作り出されている」部分もありますが、ファッションに多様性が求められることに変わりはありません。しかし衣料品の多様性はリサイクルにとっては大きな障害です。効率的にリサイクルするためには、まとめて「処理」することが必要です。まとめて処理するためには、衣料品の部材を区分して、大量に集めなければなりません。このことをファッションの多様性と両立させることは至難の業です。リサイクルは服を使用した後の最後のプロセスですが、ケミカル・リサイクルを効率的に実施しようとすると、衣料品を設計・製造する時点に遡って例えば以下のような配慮が必要になってきます。
*生地(表地、裏地等)は混紡や複合を避けて単一素材100%のものを使用する。
*ボタンやファスナー、スナップやフックといった基本的な付属物もできるだけ
少なくし、可能な限り同一素材のものを使用する。
*異素材を使った装飾(ビーズ、金属、毛皮等)は控える。
しかもこのような服を大量に作って、大量に回収して、大量にリサイクルする方が効率的ということになります。かなり高いハードルですね。
合繊のケミカル・リサイクルが技術的に可能であることは実証されています。また綿/ポリエステル混紡素材の綿部分を糖化し、発酵させてバイオエタノールを得るリサイクル技術も開発されています。ポリエステルのリサイクル専用プラントで、回収したポリエステルを解重合し、精製・脱色(染料やその他の不純物を除去)し、再重合して90%以上の再生率でバージン(未使用材料)ポリエステルと同等品質を得る技術もあります。これら技術の経済性は、製品設計、回収や素材分別を含めてどのような全体システムを構築するか、あるいは安定的に一定量以上の処理を継続できるかといった点に影響されるでしょう。技術的には可能なのですが、それを実施しようとすると色々なことを考えて準備しなければなりません。手間(コスト)がかかることも多く、これらがケミカル・リサイクル普及の制約ということになります。しかしこれが一部の服種においてでも実現できれば、ケミカル・リサイクルされた合繊は資源循環のループに組み込まれ、限定的ではあるにせよ有限な化石原料の消費抑制とCO2の排出抑制に寄与することが期待されます。
衣料品のマテリアル・リサイクルの限界やケミカル・リサイクルの制約について見てきました。衣料品は私たちの生活に身近な必需品ですが、使用後のリサイクルを考える場合には非常にやっかいな製品です。しかしいくらリデュースしようがリユースしようが、いったん製造されたものは最後には廃棄物になります。これは避けられないことです。衣料品が身近な必需品であるだけに、何とか廃棄段階での環境配慮(サステイナビリティ)を実現する技術革新やシステム構築が求められています。