号外:日本のインフラはゲームが救う、老朽マンホールを突き止めよ!
スマートフォンでのゲームを利用して、市民参加型で社会インフラの情報を収集する試みが紹介されています。とても良く考えられた仕掛けで、参加者は楽しみながら情報収集することで社会貢献につながります。主催者側は、必要なのに収集することが簡単ではない情報を、参加者の協力によって得ることができ、社会インフラの整備に活用できます。このような取り組みがもっと広がってゆけば、参加者(市民)の社会インフラ整備への関心を深めることにもつながっていくと思います。
2022年2月3日付け日経ビジネス電子版に掲載された記事より、
”「マンホール聖戦 全国出陣祭り」と題し、2022年1月29日から展開中のゲームイベントがある。これは実証実験を兼ねた市民参加型のゲーム「鉄とコンクリートの守り人」を活用したイベントで、開催は今回で5回目。鉄とコンクリートの守り人は、マンホールの蓋をスマートフォンのカメラで撮影し、全地球測位システム(GPS)を活用して登録していくゲームで、「成績上位」の参加者には運営元から賞金も出る。”
”市民参加型インフラ情報プラットフォームの構築・提案・運営を行うスタートアップのWhole Earth Foundation(WEF)と、水道管業界の国内シェア3位でマンホールの製造も手掛ける日本鋳鉄管がこのゲームイベントを運営している。なぜマンホールの写真を集める必要があるのか。このゲームが開発された背景には、老朽化しつつある社会インフラの現状を確認するという狙いがある。”
”下水道用マンホール蓋の主要メーカーでつくる業界団体の日本グラウンドマンホール工業会(東京・千代田)が2018年に公表した推計によると、日本には下水道のマンホールは約1500万基あり、そのうち2割に相当するおよそ300万基は30年以上交換されていないという。国が定める車道用マンホール蓋の標準耐用年数は15年。その年数をはるかに上回る期間、放置されているマンホールが相当数あるのだ。だが、実際に更新されるマンホールの鉄蓋は全国で年間10万基程度にすぎず、老朽化するマンホールは増えるばかりだ。”
”下水道の管理責任は国や県ではなく、市区町村にある。ただ、インフラ投資に使える財源は限られており、多くの自治体では手が回っていないのが現状だ。放置すればスリップや落下という事故につながる危険性がある。いかに効率的に現状を把握し、インフラ更新の投資につなげるか。その実証実験も兼ねて行われているのが、ゲームを使った冒頭のイベント「マンホール聖戦」だ。”
”自治体がそれぞれ業者に委託して目視でマンホールの状況を確認するには、時間もお金もかかる。そこで、WEFと日本鋳鉄管は市民参加型のゲーム開発に乗り出した。実現すれば、多くの人を「巻き込む」ことで効率的にマンホール蓋の写真を収集できるようになる。集まった画像を自動的に診断して劣化度合いを測り、データ化する。自治体はそのデータを基に、どこのマンホール蓋から置き換えればいいかの優先順位を付けることができるのだ。”
”ゲームの「鉄とコンクリートの守り人」は、参加者がインフラの「守り人」となって、力を合わせて国内の老朽インフラに立ち向かうという内容だ。参加者は会員登録を済ませ、ゲーム内の地図上に記された位置のマンホール写真を撮影して投稿する。あらかじめゲームの地図内にあるマンホールの位置情報は、下水道台帳に記載されているデータなどを基にしている。だが、データにないマンホールもある。その場合は、新規として投稿する。すでに写真が投稿されたマンホールはゲームの地図上で色が変わり、「投稿済み」が一目で分かるようになっている。地元に未投稿のマンホールはないかを探したり、あるいは未投稿のマンホールを探して遠くまで出歩いたりと、参加者は協力して楽しみながら「コンプリート」を目指す。ゲームの登録会員は全国で3万人に及ぶ。”
”世界中で人気を博したスマホ向けゲーム「ポケモンGO」では、ユーザーがポケモンを獲得するために交通マナーを守らないなど社会問題化した過去がある。マンホールは車道にも多く存在するため、ゲームに熱中しすぎると、事故につながる危険性もある。ゲームでは周囲の状況をまず写真に撮り、その後マンホールの写真撮影と2段階に分けることで、事故を防ぐ仕組みを構築している。また、私有地や立ち入りが危険なエリアのマンホールは、ゲームの地図から除外するなどの配慮もしている。”
”WEFと日本鋳鉄管は2021年8月に、東京・渋谷区で「マンホール聖戦」の実証実験を始めた。当初の狙いは、区内にある約1万基のマンホールの写真を5日間で収集するというもの。だが、蓋を開けてみれば初日のみで7800基の写真収集に成功し、3日ですべての写真データを収集できた。2021年10月には「マンホール聖戦 東京23区コンプ祭り」と題して、対象エリアを23区に拡大して実施。期間内で約24万基のデータが集まった。23区内のうち6区は収集率が100%に達し、文字通りのコンプリートとなった。同年11月には地方都市で初となる石川県加賀市で約8000基のマンホールを対象にマンホール聖戦を展開。開始初日で95%を収集し、1日半で全マンホール蓋の画像収集が完了してしまったという。”
”満を持して、ゲームのエリアを全国に拡大し、今まさにマンホール聖戦が実施されている。これまでのイベントで用意した賞金の多くは運営サイドの持ち出し。今後は、取得したデータを活用した自治体への提案などにつなげていく考えだ。マンホール蓋や下水道管の更新需要が高まれば、メーカーである日本鋳鉄管にもビジネスチャンスが生まれる。インフラへの再投資で重要なのは情報で、地方自治体が単独で調べるには限界がある。これからのインフラ再整備でカギになるのは、市民参加型のゲームなのかもしれない。”