号外:農業生産性の改善、高付加価値品への転作
<食糧安全保障、トウモロコシ増産で備えを>の項を参照
2020年度の日本の食料自給率はカロリーベースで37%、生産額ベースでは67%です。下記に掲載したグラフでもわかるように、日本国内の農業生産は、野菜、米、果実、畜産が中心です。ここに含まれていないのが、パンや麺類の原料になる麦類と、家畜の飼料になるトウモロコシ等の穀物です。畜産物は国内でも生産されていますが、その飼料はほとんどが輸入されています。このためカロリーベースの自給率が37%と低くなっています。食料安全保障(必要な食料を確保する)という観点からはカロリーベースの自給率の改善が必要ですが、その一方で国内の農業を活性化するためには収益性を高めることが求められます。そうでなければ、国内で農業を営む人・企業が無くなってしまいます。食料自給率と農業収益性の両方を改善していくにはどのような施策が効果的なのか、国民全体の課題として考えていかねばなりません。
2022年7月29日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
”面積当たりの農業産出額が大きい「稼ぐ農業」への転換が群馬県や山梨県で進んできた。担い手が減り耕作放棄地も広がる農業を再活性化するには、収益性を高める努力が欠かせない。上位県はカット野菜向け生産を拡大するなど世の中の変化に柔軟に対応し、価格競争に負けない産品への切り替えも進める。”
”耕地1ヘクタールあたりの農業産出額を都道府県別に算出し2005年から2020年にかけての増減率を比べた。最も向上したのは群馬県で全国集計を22.5ポイント上回り31.6%増となった。山梨県が29.0%増、長野県が26.7%増で続いた。”
”群馬県ではJA邑楽館林(館林市)が農家の経営安定性を高めるためキャベツの契約生産に注力した。消費が減る米や麦に代えて2016年度から業務用や個食拡大で需要が増すカット野菜向けを拡大した。通常の生産と異なり大きさを選別する手間がなく、出荷用段ボールなどを用意する必要もない。生産コスト低減に加え、定額で買い取られるため安定収入にもつながり、若い農家を中心に転作が進んだ。栽培面積は2021年までの5年間で4倍近くに増えた。”
”館林市は比較的温暖な気候を生かして冬場にキャベツを生産する。一方、以前からの一大産地である高冷地の嬬恋村は夏場が出荷のピークとなる。県内15のJAなどで構成するJAグループ群馬は、こうした「時間差」も活用した通年出荷の確立を目指し、他産地でもキャベツ生産を推進した。県全体の作付面積は2005年から2020年にかけて2割拡大した。”
”山梨県は特産品のブドウを高付加価値な品種に切り替えた。JA全農やまなしによると、2010年代半ばから単価の高いシャインマスカットを増やし始め、2018年に販売額、2020年には出荷量で巨峰を抜き、品種別トップとなった。甘く皮ごと食べられることが人気を集め、大田市場(東京・大田)での2021年取引価格は1キログラム当たり平均2094円と巨峰の1.7倍の水準にある。”
”全国では農業の担い手が減り続けている。1950年に600万戸を超えていた総農家数は2020年に174万戸まで落ち込み、直近5年でも40万戸減少した。果樹園・牧草地などを含む畑と田んぼを合わせた耕地面積も1960年から2020年にかけて28%減った。”
”山梨県では品種を転換することで、高齢化による生産量減少の悪影響も緩和する。県全体のブドウの生産量は栽培面積の減少により、この12年間で2割減ったにもかかわらず、高単価品種へのシフトによって生産額は68%増加した。県は土地の収益性をさらに高めるため、温度や日射量などのデータを農業に生かそうと県果樹試験場で研究を進めている。県農政部では、シャインマスカットの単位面積当たり収穫量を今後3年で2倍にする目標を掲げている。”
”米産地は需要減が響くが、新たなブランド米が産出額を下支えしている地域もある。2010年に「つや姫」の本格販売を始めた山形県は収益性の改善率が全国4位となった。有機栽培など基準を満たす農家に生産を限定して品質管理を徹底し、ブランド力を高めた。農林水産省が発表した4月の相対価格は新潟県魚沼産コシヒカリに次いで2位につけた。併せて高価格帯の果実生産にも注力し、代表格のサクランボでは500円玉ほどの大きさの新品種「やまがた紅王」を今春出荷した。既存の佐藤錦と紅秀峰の合間を埋める6月下旬が収穫のピークとなり、6月中旬から7月上旬まで継続してサクランボを出荷できる体制を整えた。”