号外:日鉄とJFE、水素製鉄実用化で連携

脱炭素を目指す技術開発には膨大な資金が必要になります。それを1企業だけで賄うことは難しく、本来は競合関係にある企業同士が連携したり、また国・政府の支援を受けたりしながら、研究開発を進めています。成果をどのように分配するかといった課題もありますが、世界の動きに遅れずに脱炭素を目指すことは地球温暖化対策として重要ですが、同時に各国の産業が競争力を維持するために必要なことです。

2022年9月13日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

千葉県にあるNEDOの水素製鉄設備

日本製鉄とJFEスチールは脱炭素の切り札とされる製鉄法「水素製鉄」の実用化で連携する。石炭の代わりに水素だけで鉄鉱石から鉄を取り出す。高炉よりCO2排出量を50%以上減らす。2050年までに実用化を目指す。鹿島や竹中工務店などはCO2を閉じ込めるコンクリートの開発を進める。いずれも複数社が集う連合体で進める。脱炭素時代の生き残りへ競合同士が協調する動きが広がり始めた。”

“日鉄とJFEスチールの協業は、神戸製鋼所を含めた鉄鋼大手3社などによる「水素製鉄コンソーシアム」の取り組みの一環だ。2社は鉄の含有量が少ない低品位な鉄鉱石から水素だけで鉄を取り出し、電炉で溶解する「直接水素還元」の実用化に取り組む。日鉄、JFEスチールでそれぞれの拠点に試験炉を建設し、2024~25年度に試験を始める。実証試験で得る操業のノウハウを共有し、設備や人材も共同で活用していく。コンソーシアムはCO2の排出を抑えられる電炉を使って高級鋼材をつくる技術も共同開発する。知見を共有し、脱炭素技術で海外勢に先行できるよう取り組む。

日本の鉄鋼業界は国内産業界で出すCO2の4割を占めており、脱炭素に向けて業界全体で10兆円規模の投資が必要とされる。「個社の人材や設備には限りがあるが、海外との競争に勝つにはスピード感が必要だ。オールジャパンで研究を加速する」。JFEスチールの渡辺隆志技術企画部長は、コンソーシアムの意義を強調する。”

脱炭素への連合体での連携

“複数社が集う連合体の形で協調する動きは鉄鋼業界にとどまらない。原料のセメントに由来するCO2の排出量が国内全体の3%にも及ぶコンクリートの脱炭素化を巡り、鹿島、竹中工務店、化学メーカーのデンカの3社を中心にコンソーシアムを立ち上げた。ゼネコンや素材メーカー、大学など55の企業・大学・研究機関が参加する。鹿島など3社はCO2を閉じ込めるコンクリート開発で協業してきた。コンソーシアムでは今後10年かけ、CO2の吸収効果がより高く、低廉なコンクリートを開発する。鹿島の坂田昇土木技術部長は「大手ゼネコンだけでなく町の工務店でも使える汎用品になって初めて脱炭素に効果がある」とし、企業の壁を超えた連携に期待する。”

“カーボンゼロ時代に新たな商機が広がる技術でも協調の動きが活発になってきた。電気自動車(EV)向け次世代電池として期待される「全個体電池」では、トヨタ自動車やJX金属など11社が研究を始めた。同電池は燃えにくく安全で高効率とされ、EVの航続距離を伸ばす可能性がある。蓄電性能を高め、製造時のコスト削減も進める。EVのモーターに欠かせない永久磁石ではTDKや信越化学工業などが高性能化へ共同研究に取り組む。

各業界でライバル企業の垣根を超えた連携が進む背景には、脱炭素に向けた巨額の投資を1社ではまかないきれないためだ。日本政策投資銀行(DBJ)は、日本企業のカーボンニュートラル実現には2031年度以降に毎年5兆6000億円規模の設備投資が必要になり、2050年度までの累計投資額は約160兆円にのぼるとの見通しを示している。ライバル同士の協業の動きの背景には政府の後押しもある。政府が2兆円を投じる、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業」の支援を受け、鉄鋼業界には2030年度までに水素製鉄など脱炭素のための技術開発に合計1935億円が投じられる。水素製鉄コンソーシアムはその一環だ。コンクリートの脱炭素を目指すコンソーシアムも支援を受ける。”

ただ海外と比べると政府の支援は見劣りするとの声もある。中国政府は初期の技術開発にとどまらず、商用化を見据えて巨額の資金が投じられる。500億元(約1兆円)の基金を設け、世界鉄鋼最大手の宝武鋼鉄集団主導で研究開発を始めた。スウェーデンでは国営企業が参加して水素製鉄の実用化を進め、2026年にも量産を始める。日本の鉄鋼関係者は「投資リスクを抑えるためにも長期を見据えた金銭的支援を求めたい」という。ライバル各社が脱炭素に向けて生き残りをめざして協調するだけに、成果物である技術の権利を各社でどう分け合うかという課題もある。協調して実用化をめざす先端技術だけでは企業が競争力を保ち続けるのは難しい。建設業界関係者は「明確な独自技術を持ち続け、競争できる環境をつくる必要がある」と指摘している。”

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