号外:COP27、温暖化「損失と被害」

2022年夏、気候変動によって激しさを増したモンスーンの雨がパキスタン全土で大規模な洪水を引き起こしました。国土の3分の1が水没したとされる大災害です。この洪水による経済損失は、パキスタンの年間GDPの10%を超える約400億ドル(約5.8兆円)にも上ります。気候変動と異常気象の関係を分析する国際的なグループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」は、パキスタンの水害を引き起こした原因についての分析結果を発表しました。それによると、人為的な気候変動によって雨は最大75%激しさを増し、熱波の発生率は30倍に増えたとしています。パキスタンの環境大臣は「我が国の温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の1%にも満たないというのに、異常気象のために甚大な被害を被っている」と述べています。もはや、これは自然災害ではありません。まさに人災なのです。では、一体誰が責任を取るのでしょうか?

2022年11月7日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

パキスタンの洪水

“地球温暖化対策を話し合うCOP27(第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は海面上昇や干ばつなどによる途上国での「損失と被害(ロス&ダメージ)」への対応を正式な議題とすることで合意した。不満を募らせる途国側は温暖化の影響による損失補填で大規模な支援を求める見通し。先進国側とは具体策で隔たりがある。首脳級会議が11月7日に始まった。国連のグテレス事務総長は演説で「先進国が率先して行動しなければならない」と、CO2などの排出削減や途上国への支援で踏み込んだ行動を取るように呼びかけた。「損失と被害」への具体策ではCOP27議長のシュクリ・エジプト外相が6日、遅くとも2024年までに最終的な結論を得たいと語った。”

“「損失と被害」は大型ハリケーンや干ばつなどで家屋や収入を失ったり、海面上昇で住む土地がなくなって移住を余儀なくされたりする事態を想定する。小規模な途上国はこれまで排出が少なく、先進国に比べて温暖化の責任は重くない。先進国と異なり財政的な余裕はなく、有効な対策をとれず影響をじかに受ける。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、気候変動による被害は世界で顕在化している。パキスタンでは6月中旬以降の洪水で1700人超が死亡し、1万人以上が負傷した。住宅も220万戸が損壊し、1万3000キロメートルの道路が被害を受けたという。いまも多くの地域で浸水したままだ。”

気候変動との関連が指摘される主な被害

南米で干ばつが深刻になっている。チリは2020年ごろから干ばつの常態化の可能性が指摘される。アルゼンチンは国内の農業に適した地域のうち、75%が降雨不足に見舞われている。水不足で2022~23年の小麦の生産量は前年同期比で28%減少する見通しだ。海面上昇も影響を及ぼす。高潮や洪水のリスクが高まり、海岸が浸食されて土地が狭くなる。海抜の低い島しょ国のキリバスなど他国への移住を検討する国もある。39ヶ国からなる島しょ国連合は6日、多くを排出してきた先進国を念頭に「他社がつくりだした汚染の犠牲になるつもりはない」と表明した。「損失と被害対応基金」の設置も要求し、被害が出た国に基金から資金を拠出する構想をえがく。中国など途上国グループが後ろ盾になっている。グテレス事務総長は9月、化石燃料を扱うエネルギー企業に課税して徴収した分を途上国に回す案を提起した。”

これまで「損失と被害」に関する議論を独立させることに慎重だった先進国はこのたび姿勢を和らげた。異常気象で途上国を中心に大規模な被害が出ており、方針を転換した。もっとも現段階では議論に同意しただけで、具体的な支援策については明らかにしていない。米欧はとりわけ支援の額を提示するのには慎重だ。「損失と被害」をどう定義し、どう測定するかによって支援が巨額になる可能性がある。支援額を巡っては2030年に2900億(約42兆円)~5800億ドル、2050年には1兆ドル超になるとの分析もある。”

“途上国が求めるのは「損失と被害」による支援だけではない。温暖化ガスの排出削減などの分野で、先進国は2020年までに年1000億ドルを途上国に拠出すると約束した。実際は833億ドルにとどまる。1000億ドルが実現するのは2023年になりそうで、途上国側で先進国への不満は高まる。2025年以降の支援について、1000億ドルからの引き上げを視野に目標額が議論される見通しだ。”

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